第24話

「シープちゃん。お願いがあるの」


ある日の午後、いつもよりおしゃれなメリーさんが私の前に現れました。


「どうしたんですか?デートですか?」


メリーさんがくすっと笑って私の頭を何回かなでました。


「実はね、今からね、オーデションを受けに行くの」

「オーデション?」

「合格したら、スドウ監督の映画に出られるかもしれないの」

「映画にですか!おめでとうございます!」

「まだ、決まったわけじゃないって、シープちゃん。1週間ぐらい前に、監督さんから電話がかかってきたの。3年後に上演する映画があるんだけど、オーデションに出てみないかって。合格しても、出番はちょっとしかないかもしれないんだけど」

「夢に一歩、近づきましたね、メリーさん!歌手になる夢に」

「そうだといいんだけど」


メリーさんが下を向きました。


「今日は、お客さんに歌を聞いてもらったらいいじゃないですか」

「私も、そう思うの。今日は私のことを知ってもらえたらいいなって。そこで、シープちゃん、お願いがあるのよ」


メリーさんがしゃがみました。


「あの時、私にしてくれたこと、もう一度やってくれない?」

「めめ?」


私は首を傾げました。


「あの時、お父さんに『歌ってこい』と言われたような気がしたの。だから、私、監督さんやお嬢様の前で歌えたの」


私はニッコリ笑いました。


「いいですよ。今日もお客さんのため、団長さんのために歌ってきてください。メリーさんなら、大丈夫です!」

「ありがと。じゃ、お願いね」


メリーさんがすくっと立ち上がりました。そして、私と目が合うと、ゆっくりとうなずきました。


「メリー、ゴー!」

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羊が一匹 ~ローバさんの恋~ たえこ @marimo-suchiko

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