第6話 管理局

「でもね、悲しみで流された涙が全世界からそこに集まってきてるってことだけは、なんとなく分かった。なんとなくね。涙線なみだせんはそれを利用していたのね。そして触手をのばしてどんどん消費させればさせるほど涙線なみだせんが太くなる構造を作り上げていったんだ」


「そうやって涙線なみだせんは自己増殖していった。涙の貯蔵量が枯渇してくると、エージェントをやとって世の中に不幸な数々の事件を引き起こし大衆から涙を搾り取ったんだ」


「いや、いろいろとあくどい手口を使ってね。ここでは言えないけれど、身の毛のよだつものや、思わず目をそらしたくなるものが数多くあるんだ」


 そう言ってウェイターは片手を口のそばへ持ってくるとひそひそ話をするように、声を低めた。


「管理局はね、涙線なみだせんが羽目をはずし過ぎないように注意してたんだ。涙線なみだせんが一線を超えようとすると、ただちに介入した。でもね涙線なみだせんが存在すればこそ管理局の存在する意義もあったんだ」


「だから大抵のことは見て見ぬふりをしていた。予算編成の時期になると特にひどかったな。涙線なみだせんの活動が活発になればなるほど大きな予算が獲得できたからね。だから、私は嫌気がさして辞めたんだ。こんなところに勤めるくらいなら、しがないウェイターでもやってた方がましだってね」


「でもね、やめたくてもやめられないやつもいたんだ。家庭を持って家族を養っていてね、子供を学校へ行かせたり、塾へ通わせたりして、親の面倒や介護をしているやつもいた」


 そこまで言うとウェイターはため息をついた。彼の目にはどこか遠くを眺めている風情があった。


「私、決めたわ」

 お嬢さんが言った。

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