第7話 触手

「もう、めそめそ泣くのはやめにする。そうやって涙線なみだせんを太らせるなんて、考えただけでもぞっとするわ」


 ウェイターはにっこりと微笑んだ。


涙線なみだせんの触手に捕まったなと思ったら、自分が身につけているもので一番か二番目に気に入っているものをきちんと身につけなおすんだ。それからあいつらは必ず後ろから忍び寄って、腰骨と腰椎の間に入り込んでくるから、こうやって触手を切り落とす」


「触手は触られるとすぐに身体から外れちまう。でも空気より軽くって透明だから、触ってもなかなか分からない。でもね、切り落とすと、ぴたりと涙が止まる。それで分かるんだ。ああ触手が自分の身体から離れたんだなってね」


「分かったわ。そうする。ねえ、芋虫さん。芋虫さんも私が触手に捕まったなって思ったら、私にそういって助けてくれるわよね? ねえ、芋虫さん? 芋虫さん、どこ?」


 そう言いながらお嬢さんは周囲を見回した。


 床には芋虫の履いていた長靴たちだけが転がっていた。


「芋虫さんがいない。あたしの芋虫さんが!」


「しまった! 涙線なみだせんのやつらの仕業だ!」

「あいつら芋虫に目がないときてる。きっと今頃、芋虫は……」


「ええっ、どうしよう?」


「いいかい、お嬢さん。気をたしかに持つんだ。ここで泣き崩れたら、あいつらの思うつぼだからね。泣いちゃあいけないよ」


「うん、分かったわ。でも、いったい私どうすればいいの? どこに行けば、もう一度、芋虫さんに会えるの?」


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