第13話 いい考え

 …………ねえ、誰か、いい考えうかんだ? …………痛い、痛い、痛い…… ちょっとお、痛いのは分かったから、何か考えが浮かんだのかって聞いてんのよ…… そういうあなたはどうなのよ…… どうって、別にこれと言ってまだ浮かばないわよ。だからあなたたちに聞いてるんじゃない…… やれやれ、あなた本当に考えているの? ひょっとして頭どっかへ置いてきたんじゃない? ……なんですって? ……あの、一言いわせていただければ、今はけんかしてる場合じゃないと思うんですが…… 分かっているわよ。あまりに痛いから気を紛らわせているだけよ、ねえ…… ええ、もち、そうよ。あなたって鈍感ね…… そうよ。ほんとうに鈍感………… す、すみません。僕も、その、痛みを少しでも分担することができればいいんですが…… 少しじゃなくって、全部持っていってほしいもんだわ…… そうよ、こんなものこれっぽっちもいらないから、ぜーんぶ持っていきなさいよ…… はあ、あの、まだ随分と痛いんですか? ……今さらなんでそんなこと聞くのよ、もち痛いに決まってるじゃない。ねえ…… ええ、そうよ。痛いに決まっているわ…… あれ?  ちょっと待って…… な、なんなの? もっと痛みがすごくなったなんて、やだからね…… ねえ、ちょっとひっこめていた感覚を元に戻して、そう、外していたプラグを壁のコンセントに差し込むように。どう? ……あれ? 私、なんにも感じない。あなたもやってみて…… あたし、もうやってみたわ。痛みが消えているわ…… ええ? どうして? いったい何があったの? ……やっぱり、そうでしたか…… やっぱりって、あなたなにか知ってるの? ……そうよ。何か知っているんでしょ…… ええと、そうですね。多分、こういうことではないかと…… なに、なに? ……ねえ、ちょっとお。あんまり私に近づかないでよ。暑苦しいじゃない。その顔どけてよ…… あ、ごめん。あたしそんなにそばに寄ったつもりなかったんだけど、ごめんね…… あっ、いいわよ。そんなに謝らなくても…… あのう、しゃべってもいいですか? ……いいわよ…… どうぞ、いいわよ…… あの、ですね。こういうことではないかと、思うんですけど…… ふん、ふん…… それから? 早く言ってよ…… 


 あの、ですね。あのおやじさんの手つきって憶えてますか?


 あなた憶えてる?


 いいえ、ちっとも。あなたの方こそ、憶えているんじゃない?


 さあて。どうだったか。あまり憶えてないような気がする。でも、それがどうかしたの?


 あの、ですね。こう同じ動作を何回も繰り返していませんでしたか?


 そういわれれば、そうだったような気がするわ


 変な手つき


 そう、そう、変な手つきだった。可笑しかったわよね


 私おもいっきりそう思ったわ

 その後、頭痛がしてそれどころじゃなくなり始めたんだけど

 でもやっぱり、へーんっておもった


 あなたのしゃべり方もよっぼど変だけど

 もうちょっとまともにしゃべれないものかしらね


 あら、そうかしら。そんなこともないと思うんだけど


 いや、そうよ。変よ


 やだ、そんなに変かしら?


 あ、あのう、話の筋がこう、どこか曲がっていっちゃっているような気がするんですけど


 えっ、あ、そうだったかしら


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