第12話 スイッチ

 うるさい、私たち今それどころじゃないのよ、ちょっと割り込まないで、静かにしていて。


 で、でもう。その多分、僕の話を聞いていただければ……


 ちょっと待って、あなた見かけない顔ね。それにそのシャツに書かれている文字は何て読むのかしら? ピイで始まってるわ。


 あっ、あたしに考えさせて。ピイで始まるっていうと…… パンプキン?


 やれやれ、そんな分けないでしょ。

 あっ、彼女ちょっとね、とろいのよね。

 だから許してあげて。ひょっとして、あなたがポスト?


 そ、そうです。で、でも誤解しないでください。

 僕が、その、あなたたちを苦しめようって、思っているわけじゃあないんです。

 その遠隔なんとかでしかたなく……あっ、そんなに殴らないでください。


 こいつ、どうしようか?


 ぐるぐる巻きにして海に放りこもう。それとも針のむしろがいいかしら? 


 ちょっと待って、まだなんか変よ。


 ええ? どうかしたの?


 まだ頭痛がするような気がする。


 忘れてた。あたしも頭ががんがんする。


 やだ、まだ続いてるよう。痛い、痛い、どうしよう?


 こいつを捕まえたのに、まだ止まないなんて、いったいどうなっているのよ。


 あ、睨まないでください。

 多分、その、僕を媒介にして、おやじからの指令がまだ神経回路に直結しているせいだと……あの、思うんですけど。

 お願いですから、なんでも言うことを聞きますから。本当です。嘘は言いません。こんなこと僕の好みじゃないんです。

 まったく僕は静かに、その、公園のベンチに腰掛けて本でも読んでいたいんです。

 でもそう言う訳にもいかない事情が色々あって。

 実を言えば、本当はこんなこといやだったんです。断ればよかった。

 それが、おやじがどうしてもやれって言うもんで。

 しかたなく入らせてもらったんです。


 それで、私たちの痛みはどうしたらなくなるのよ? 早く言わないと、ぼこぼこにするわよ。


 そうよ。あなた、ぼこぼこよ。


 僕の背中にスイッチがありますから、それをオフって書いてある方に倒すんです。

 自分では手がとどかない位置にあるので、誰かにやってもらわなくっちゃならない。

 カバーがかかっていますから、まずそれを跳ね上げて、そうそう、それから…… どうしたんです?


 ちょっと、聞きたいんだけど。スイッチをオフにするとあなたは一体どうなるの?


 エネルギーが解放されて、活動停止状態になります。


 じゃあ、もう一度オンにすれば?


 これは不可逆性スイッチと呼ばれていて、一旦オフにするともうオンにはできないんです。


 それって、言葉を変えると死ぬってこと?


 ええ、まあ。


 ええ、まあ? 私にあなたを殺せというの?


 でも、さっき海に放り込むって言っていたような気が……


 それはね、言葉のあやってもんでしょ。いくらなんでも殺すことなんてできないわよ。


 ええっ、じゃあ、あたしたち、いつまでもこのままなの?

 この頭痛の洪水の中で溺れ死ぬ運命にあるとでもいうの?


 ちょっとお、頭が痛いのは私もおんなじなんだから、静かにしていてよ。今とってもすごく考えているところなんだから。


 横断歩道は周りをよくみてゆっくり渡るのよって、先生がいつも言っていたわ。だからあたしもゆっくり考えてみる。


 あのう、僕もそうしてみます。何かいい案が浮かぶかもしれない。


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