第4話 ウェイター

 ウェイターはさらに続けて言った。


「言っときますけどね、今日は女房の誕生日なんだ。何、これでも、女房持ちなんです。しがないウェイターでやっと食っていけるだけでも、探せば連れ合いになってやろうって殊勝な女がいるもんでして」


「だから今日こそは早く帰らなくちゃいけない。そうしないと、後でどんな雷が落ちるか分かったもんじゃあない」


「それを余計な仕事を増やしちゃって。あーあ。まったく。やってられないってのはこのことですよ。まったく、やってらんないっすよ」


「あれまあ、旦那もこんなにかわいいお嬢さんを泣かせちまって、なかなか隅に置けない。お嬢さんもお嬢さんだ。巷をうろつく芋虫野郎にうまく丸め込まれてここまで連れてこられたんじゃあないでしょうね」


「まず涙を拭くことだ。それから現実をまっすぐ見ることから始めるってのが真っ当な生き方ってもんだ。ちょっと失礼するよ」


 そう言うとウェイターは泣いているお嬢さんの後ろに回り込み、彼女が腰に巻いていたリボンを閉め直し、何かを手で切る仕草をした。するとお嬢さんの涙がぴたりと止まった。


「やっぱり思ったとおりだ。いえ、なに、私は昔、こういうところに勤めていましてね」


 そう言うとウェイターはポケットからメモと鉛筆を取り出すとさらさらと何かを書き、お嬢さんと芋虫に見せた。


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