こんにちは。
こういうとき、ゲームのヒロインならどうするだろう。大抵は行動おこしてて、好感度あげたり、事件が発生してストーリーが進んだりしてる。プレイヤーからは余計な行動だと嫌われる事もあるみたいだけど。
でも……悩んでいたって何も変わらない。やらない後悔よりやって後悔という格言があるくらいだし! 翡翠を探しに行こう!
「よ、よし!」
決意を込めて両手で頬を軽く二回叩く。そして門の外へと一歩を踏み出した。
「え……?」
商売をしている人、真剣に品定めをする人、店のものをその場で食べている人、子供を連れながら世間話をする人。どこを見ても人、人、人。これはどこからどう見ても市だ。
いいにおいで、再びお腹が鳴り出したのか少し恥ずかしい。現金な身体め…!
屋敷にいてこんな騒がしい声を聞いたことも無ければ外からこんなに食べ物のにおいをかいだこともない。だから本来ならありえない場所に私は立っているのだ。
一歩だけ、歩いただけ。なのになぜか門から見える景色とは違う場所に立っている。意味が分からず後ろを振り向くと何も無い。
あるべきはずの門がなく、物陰に隠れるように薄暗い道が建物と建物の間にあるだけだった。
そういった場所をよく観察してみると翡翠や屋敷にいた小妖怪のような生き物が
周りの人達に気づかれないようにひっそりと小妖怪たちの傍による。
「……ねぇ、めがみどりいろのひたいにふしぎなもようがあるいたちみたいなようかい、しらない?」
小声でも聞こえたのか何かしら反応をしてくれる。
知らない、というふうに首を傾げるもの、興味無いと言った感じで身体を後ろ足で掻き始めるもの。そして……。
とある一匹が袖をくわえて引っ張る。そしてあごから頭ををくいっと左側に向ける。
「あっち?」
指さし確認すると肯定するような鳴き声ひとつ。市場があって人気のある通りだ。
「ありがとう」
小声でお礼を言い、教えて貰った方向へと駆ける。
早いところ翡翠を見つけて、お師匠様と道満が帰るまでに屋敷まで戻らないとまずい。今ここにいるのがばれたら確実に道満には叱られるだろう……。
きょろきょろと人の足下や商品を置いてある座敷とか近くの建物の屋根の上を探しながら歩く。
「ちょいと、ぼっちゃん。迷子かい? それとも落し物?」
ぽん、と肩を掴まれる。ぼっちゃんって私か!
振り向くと心配そうなふくよかなおばさんの姿。私は首を横に振る。
「ううん、だいじょうぶ! ありがとう!」
おばさんには悪いけど、今は早く翡翠を見つけなきゃだからお辞儀をしてまた私は翡翠を探すべく歩き出した。
「おや? こんにちは、どうしたんですか?」
また背後から肩を叩かれる。
「まいごじゃないのでっ……!」
大丈夫です、と紡ごうとしたけれどそれは言えなかった。がばりと勢いよく振り向いた瞬間、驚きで言葉を失った。
「そうですか。私、
にこにこと名乗る、道満と同年代の彼。ゲームのメイン攻略キャラ、東雲を退治した張本人の安倍晴明。今あまり会いたくなかったその人が目の前にいる。
彼の見た目はゲーム同様金色の目に、白銀と影部分が水色という涼やかな印象の長髪を首の右横で結んでいる。
「えっと、あ……」
そんな彼から名前を問われ動揺のあまり思わず本当の名前を答えそうになってしまった。まずい。
「あ、あのね、しののめです」
なんとか誤魔化せたかな……。冷や汗をかいている私をよそにまじまじと興味深そうに全身を眺める晴明。
「うん、やっぱりあなたはとても面白いですね、しののめ」
……なにも、興味を示さないでください。お願いします。
「うちにきませんか?」
祈りは通じなかったよ……。
「い、いかないです」
即答気味にぶんぶんと首を何度も横に振る。が、丁度タイミングよく音を立てる腹が恨めしい…。
それを聞いた晴明がくすくすと笑いながら私の両手を握る。
「ごはんだけでも食べにきてください。ね?」
「しらないひとにはついていけません」
「それは、たしかに」
前世、現世の母からの教えがするっと口から流れ出た。さすがに諦めてくれるかな……?
「……あ!ではこうしましょう、これから友だちになりましょう!」
良いこと
「友だちらしく、名まえをよんでみてくださいよ」
「……。あべさん」
「うちの一族はきほんてきに、みんなあべさんなのですけど」
知っています。わざとです。なんて言えるはずもなく、あははと愛想笑いで誤魔化そうとする。
「ほら、せいめいってきがるによんでください」
どうしてこんなに仲良くなる気まんまんなのか分からない。とても分からない。どうしようかと答えを探しあぐねいていると後ろから聞き覚えのあるにおいと声。
「せーめい、おまえなにやってんだ……! ってしののめ!?」
なんでここに、という前に道満の背後に隠れるようにしがみつく。そしてその道満の頭の上には翡翠が居た。お前こんな所にいたのか。
「せいめい、おまえうちのに何からんでんだよ」
「うちの? どういうごかんけいなんでしょう?」
そ、そこまで聞く? 結構ぐいぐいくるな……。子供のころの安倍晴明こんなに興味津々でごり押し系だったとは…!
ゲームの物腰柔らかで人を掌の上で転がす、狐のような印象からは全然思いつかない。ここから成長してあの狐になっていくのかな……?
「こいつはおれの弟分みたいなもんだ!」
「弟分……ですか。これはまたずいぶんとかわいらしい弟分で」
い、今、可愛らしいに含みを持たせたような気がする……! もしかして女だってばれてる!?
顔を合わせると、目線が合う。いや晴明が合わせに来ている。あ、ゲームでよく見る何かしら察している笑顔だ。狐はすでに狐だよ!!
「しののめ、もし嫌なことあればいつでもこのお兄さんがお話きいてあげますからね」
「いやいらねーよ。しののめ、こいつは絶対だめだかんな」
「おや、では道満がしっかりとその子をまもるんですよ」
「うるせーな。おれにさしずすんなよな」
「おやおや、あいかわらずですね道満は」
一通り悪態をつくと、じゃあそろそろと帰ります、と晴明が切り出した。
「そうだ、しののめ。そこな道満にいじめられたらいつでもたよっていいんですからね。このお兄さんが味方してあげますから」
それだけ言い残して去っていった。
「なんだったんだ……。あいつは……」
呆れ声の道満に心の中で同意する。
本当になんでこんなことになったんだ……。
乙女ゲームの悪役兄貴のはずが姉貴に転生してしまった!! 瑠輝 @ruki_narou
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