三日目のこと
三日目、また二人のいない朝を迎えた。お腹が音を立てることは無くなった。だがどうしようもなく空腹状態なので夜に何度も目が覚めていた。一度起きると中々これが寝付くまで時間がかかったので、正直寝不足だ。
「ふあ……。ひすい、おはよぉ」
大きな欠伸をつき、背伸びをする。一緒に寝ていた翡翠もくわぁっと欠伸。なんか可愛い。
今日の分の水を汲まないといけないと 眠気まなこのまま、井戸に向かう。水を引き上げているときふと思った。昨日掃除するなら服を洗えばよかった、と。
今更、昨日のことを悔いても仕方ない。やるならまだ体力のある今がいい。ついでに体綺麗にしよう。
乙女ゲームの世界でよかったって思うのはこの本当ならこの時代には無かったものや文化があるということ。今は火を焚ける人がいないので無理だが転生してもお風呂に入れるというのは嬉しい。
「よし…っと」
手桶に移し替えた水を屋敷の前まで運んでいく。この前より多めにとっているので少し重たい。こぼさないように、落とさないように気をつけながら運んで屋敷の前に置く。もう一度似たようなサイズの空の桶を持って井戸へ再び向かう。今度は飲み水用だ。
飲み水用の桶は廊下の上に置いて翡翠に屋敷の中から布を二枚ほど持ってきてもらう。服を脱ぎ、清潔な布を水に浸して絞り体の汚れを落とす。
「…っ、」
お師匠様から殴られて傷になっているところに水が染み込み少し痛くて声が漏れる。けどこんなことで泣いてはいられないのでじんわり滲み出してきそうな涙を上を向いて引っ込める。
その後も、打撲の痕や自分では見えない部分にも傷を発見したりと、大きな鏡や見えにくいところはカメラで確認が出来る前世が懐かしくなった。
体が清潔になったところで乾いた布で水気をとり、新しい服に着替え直す。私が着ているものは全て道満のお古だ。なので微妙にサイズがあってなくてつるつるてんの物もある。まあ服を着させてもらえるだけ感謝しなきゃ。
さっき脱いだ服は水が張ってある桶に入れてごしごしと手で洗っていく。さすがにご都合世界の乙女ゲームとはいえ洗剤というものはないので汚れ落としは手作業だ。
洗った服は廊下の欄干というか柵のような部分に干して、洗った石を重しにして置いた。
やることが終わって、一服…。水だけど。それでも飢えている体にはとても美味しく感じた。
熱中してなにかをやっているときは余計なことは考えなくてすむけど、いざそれが終わるとまた余計なことを考えてしまう。
もし、このままお師匠のと道満が帰ってこなかったら。捨てられてしまったのでは、とか。
妹はヒロインだから死ぬことはなくても、怪我していないか。ゲームで養父養母として育ててくれたという設定のあの優しい夫婦には会えたのだろうか?
思考がどんどん違う方向へ行っていると、翡翠がそばに居ないことに気付く。
「…ひすい?」
辺りを見渡してみても翡翠はやっぱりどこにも居なくて。
「…さがさなきゃ」
正直これ以上あまり体力は使いたくないけれど、今、翡翠まで居なくなったらきっと孤独感でどうにかなりそうになる。
「おーい、ひすいー」
屋敷内を声をかけながら、ぱたぱたと歩いていく。調度品の下や物陰を覗き込み探してみる。屋敷の小妖怪たちにも声をかけて見たけどみんな分からないといった様子だった。
もしかして翡翠まで私を見捨てたんじゃあ…?なんていう変なネガティブな想像をしてしまい、徐々に焦燥感が生まれてくる。
「ひすいー!ひーすーいー!どこなのー!?」
屋敷内をあらかた探してみたけれどやっぱりどこにも居なくて。もしかして、外に行ったんじゃあ…?
「いいか、せったいこのやしきから出るんじゃないぞ」
出発前の道満の言葉が頭をよぎる。こういうときの道満の言いつけは何か理由がある。ただその理由までは分からない。
理由の分からない言いつけを破り外に翡翠を探しに出るか、いつ帰ってくるかは分からない二人と一匹をずっと独りで待ち続けるか。
「ど、どうしよう…」
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