番外編~美弥は告白の真理を知る~
──どうしよう。
頭の中で反芻する戸惑いの言葉。
──だって自分で決めたじゃん。
過去の自分にそう言っても届かない。
──今さら遅いよ。
もうこちらを向いてくれてはいないかもしれないというのに。
──だけど……。
仕方がないんだ。心というものは脳みそで考えたようには動いてくれないのだ。そして、最終的には心が勝つことも、私は知っている。
受け入れよう。受け入れた上で考えるんだ。
便箋を1枚取り出す。ありのままの気持ちを伝えたい。だからシャーペンじゃなくて、ボールペンで。消して書き直しても私の場合、後悔しそうだから。
「美弥~、いつまで寝てるの。もう7時だよ」
「え、お姉ちゃん!?ってかそんな時間!?え!?」
私は慌てて布団から出て洗面所に走る。後に付いて階段を降りてきた姉の姿を見て目を凝らす。
「ちょっと飛行機が遅れちゃってね~。今日の未明に着いたのよ」
そんな時間じゃ気づくはずが無い。
「え、でも遅れそうから今日の昼過ぎに着くって話じゃなかった?」
私の姉、沙弥は大学生で北海道に一人暮らしをしている。夏が忙しく帰ってこれなかったため、秋になって帰ってきたのだ。
「JRバスの最終便が残ってたんだよね~。全っ然調べてなかった……」
「なるほふぉへ」
歯を磨いて諸々の準備をする。
「行ってきま~す」
「いってらっしゃ~い」
自転車を出して学校へ向かう。タイムリミットまであと5分。間に合え~!!
「遅いよ~美弥ちゃん」
「めっちゃ寝坊しちゃった」
教室に入ると、仲の良いメンバーが集まってくる。
「え!めっちゃクマできてるよ!?」
「マジで!!?」
私はチラッと彼の方を見る。教室の喧騒に紛れることなく静かに本を読んでいる。
「まあちょっと色々あってね~」
「さては寺末関係?」
そう、彼女らは私が文也に告られたことを知っている。だけど。
「いやーそれとは別で」
あえて否定する。どっちが受け身か、というのでかなり変わるから、と自分に言い訳をする。
家に着くと姉が1人でカップラーメンを食べていた。
「食生活乱れぎみなんだよね~」
私は台所に直行してフライパンを取り出す。チチチチチチという風情のある音はせず無機質にピッという音とともにフライパンに熱がこもる。
「ちょっと待ってて」
私は冷蔵庫を漁り、適当に食材を取り出す。
「わ、ありがと!」
「ちょっとは料理できるようになったから」
フライパンを温めている間にミックス粉と牛乳、卵を混ぜ合わせる。ホットケーキだ。
「寺末くんって子にも将来そうやって料理してあげるの?」
!?
「ちょ、え……」
ボウルの中に泡立て器が倒れこむ。
「ごめんね、ベッドのサイドテーブルに手紙が乗ってたから」
これはやってしまった。
「でももうあれはさっさと渡すべきだよ」
「え……でも……」
そんなの自分勝手すぎるよ。そういおうとしたのに。
「告白なんて自分勝手にならなきゃできないよ。人間は何のために言語を習得したの?自分の気持ちを伝えるためじゃん。伝えたい気持ちがあるなら伝えなきゃ」
姉は主に中~高校生にかけて数え切れないほどの恋愛経験がある。実際のところ姉は身内ひいきでもなんでもなく、美人で平均すると月に1回は告白されていたんじゃないかと思う。でも、自分から告白したときの成功率はかなり低かった。だからこそ、姉の話すことが真理なのかもしれないとも思える。
「成功するかな……」
「私の読みだと成功するよ。だってほんの1週間前に向こうが告白してきたんでしょ?男子ってね、意外とああいうの引きずるよ」
そうなんだ。
「ちょっと私は明日明後日で別府に行ってくるから見送れないけど、いい報告を待ってるよ」
うん。
「ありがとう」
私は階段を駆け上がる。明日は早起きしよう。いい1日になるといいな。
──────────────
あとがき
これにて完結です。27000字を越える連載でしたがお楽しみいただけたでしょうか。
ぶっちゃけ、1から小説を書く、ということが久しぶりのことで緊張していましたが、なんとか無事に連載を終えることができてほっとしています。あまり劣化していないといいのですが……。
10月1日(木)~は新たな小説の連載を始めようと思っておりますので、ぜひそちらの方もご覧ください!詳しい内容については近日中に近況ノートでお知らせさせていただきます!!
恋愛階段 音槌和史-おとつちまさふみ- @OtotutiMasamune
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