番外編~1組だけの南京錠~

「合格だった」

「良かった!」

 ゆっくりと校門に向かいながらころころと笑う声を耳に収める。

「そういえば音色はどうやって学校行く予定してる?」

「大通りまで出ればバスがあるからバスかな~。筧もバス?」

「大通りに近いからバスだな」

 父さん母さん、いいところに家を建ててくれた、グッジョブ!

「けどあれ、1本乗り遅れるとアウトだよね~」

 そう、近所を走っているバスは30分に1本しか走っていないのだ。

「バスに俺が乗ってこなかったらLINEして」

「それもう間に合ってないじゃん」

「そうだったわ」

 せっかちな桜が蕾を膨らましつつある下を2人歩く。これを壊さないよう慎重に……慎重に……。

 

 

「合格だった」

 隣で筧が微笑む。春の陽のような温かさに私は惹かれたのだ。3年間も温めた想いなら伝えても……いいのかな。

「良かった!」

「そういえば音色はどうやって学校行く予定してる?」

 ……。今のところ近くまで車で送ってもらう予定だけど。筧の家はバス停に近いからきっとバスだろう。

「大通りまで出ればバスがあるからバスかな~。筧もバス?」

 家に帰ったらバスで通学する、って伝えよう。

「けどあれ、1本乗り遅れるとアウトだよね~」

 ──筧が遅れそうだったら私が起こしてあげてもいいんだよ?そう言おうとしたら。

「バスに俺が乗ってこなかったらLINEして」

 ……ん?

「それもう間に合ってないじゃん」

「そうだったわ」

 まったくこういうところ含め春なんだよね、筧は。

 

 

 

『あのさ……』

 人通り少ないのどかな道で2人の声が重なる。

「あ、先にいいよ」

「いや、音色が先に言っていいよ」

 まさかそんなことは無いよね……。音色はそう思いながらも意を決した。

「何文字?」

 え?これって……。違ったらツラいけど……。自然と足が止まった2人は顔を見合わせた。筧は微笑む。

「2文字かな」

「私も一緒だ~」

 春のような陽気な笑い声が小路に谺する。

「えじゃあせーので言う?」

 

 

 

 この雰囲気は絶対にあれだよな。これで、あれじゃない場合が「めし」くらいしか思いつかないから、きっとあれだろう。

「俺はいつでも言えるよ?」


 

 そんなことってある?こういうのって少女漫画の世界線でだけ見られるシチュエーションじゃないの?

「私もいつでもいいよ」

 

 

「じゃあ……。せーの」

『……好き』

『……夢じゃないよね?』

 

 

 俺はあまりの眩しさに夢を疑う。でもほっぺたをつねってもただ痛いだけ。ということはこれは現実?

「ちなみにいつから……?」

「小学6年生の時かな。筧が引っ越してきてすぐ」

 ほぼ同じタイミング……。

「俺も一緒。絶対一目惚れなんかしないって思ってたけど、やっぱり一目惚れなんかいう軽いものじゃなかったよ」

「鍵の形と鍵穴の形がちょうどあったんだよね」

「じゃあ、鍵を閉めようか。いつまでも一緒にいられますように、って」

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