4ページ目 嫉妬

 まさか自分自身、アンネの日記がここまで揺さぶられ続けるとは思わなかった。のいうのも、今も色々と考え続けている。


 アンネさんは、すごく才能豊かなんだけど、才能以上に父親から受け継いだ文化的資本があまりにもすばらしいのである。彼女の父の言葉はどれも来るたびにうらやましさで大きな声を出したくなるような、そうした魅力を感じるものである。これは日記を読んでいて彼女がかなり触れているところであるが、父親がドイツの思想家の素晴らしい思考を子どもたちに受け継がせたいと思い、自分から何が素晴らしいのか体現していく姿勢を感じ取ることができた。


 その父親に恵まれている姿を見ていると、どうしても嫉妬心に駆られるのであった。こうした父親を持った自分の恵まれっぷりたるやという圧倒的な自負を彼女は持っていたし、自分も文字を見るだけでアンネフランクの父親がいかに魅力的かは分かるところがあった。彼女の文才自体も、その父親の教育や視点が与えた賜物であろうということは痛感する。


 そして、彼女自身が聡明であるが、年相応な視点を持っていること自体もわかる。文章自体は本当に大人顔負けの力を持っているが、こと精神性に於いては彼女は非常に幼いところが多い。彼女自体が15歳であるからその幼さ自体は当たり前なのである。僕は23歳であるから、彼女の幼い部分がちらりと見える文章を確認して「この子はこの部分がかなり幼いなぁ」と思うのは、8つも違えば理解できるであろう。これが大人の感想であるとすれば、相当策士家が書いていると言わざるを得ない。いずれにしても文才の溢れた人が書いた文章であることは間違い無いのである。


 それゆえ激しく嫉妬している。彼女はもう80年前に不遇の死を遂げているというのに、自分の方が恵まれている立場にいるはずなのに、彼女の才能、文化的資本、環境すべてに嫉妬しているのだ。彼女が彼女たらしめる要素全てが彼女の才能の因果に結びついているであろうことはわかっているし、自分がいくら嫉妬しても彼女のようにはなることができないことはわかっているのに、どうしても嫉妬心が拭えない。

というのも、自分自身が父親に対して人としてかなり嫌なものとして認識しているところがあり、他の「父親」を見ているとすごく悔しいのか、羨ましいのか、妬ましいのか………


 今日はゲームをやるつもりだったし、やりたくてたまらないと頭の中では思っていたのに、こころはアンネフランクに引き寄せられてしまい、ゲームをやる心が生まれなかった。どうしても彼女に嫉妬するし、この嫉妬心と向き合わなければ自分の心が許さないのであった。頭はゲームがしたいから、ゲームを引っ張り出してゲームを開始しようとプレイしたが、2分で飽きる。プレイしている最中には心の声がひしひしと自分の頭にこだましていく。


「僕はこんなことをやりたくない。あんなにうらやましい女の子が差別に殺された話を読んだ直後だぞ。もう少しいろいろと考えたいし、色んなものが読みたくなっている。ゲームがやりたい気持ちはわからなくもないけど、別の日でもよくない?」と。そう心が頭に言い、頭は「なんか乗り気じゃないんだよね。感情がさ。お前のせいだろう?」と言い返す。そうすれば、本をすっと取り出して「次はこれを読むかな」と思うんだ。何故か僕は食欲が今日はまるでなくて、どうしても食べなきゃと思ってチョコを食べたけれど、今日はそれしか口に含んでいない。薬はどうしても飲まないと息がつらいので飲んだけれど、薬以外は何も摂取せずにひたすらに考え続けていた。


これからすぐに本を読むつもりだから、取り急ぎこれまで。

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