「言いたくないけど……」←じゃあ言うな

母の口癖のうち、嫌いなやつの1つに、

「言いたくないけど……」

というのがあります。


小言を言ってくるとき、母はたまにその一言を付け加えます。

しかし、人間が実際口に出している言葉は、言いたくて言ってるのと同じだと、自分は考えます。

だから、「言いたくないけど……」という言葉には、

「私はこんなこと言いたくないけど、お前が言わせてるんだぞ?」

という、責任転嫁のニュアンスが感じられるのです。


実際、母から小言を言われる場合、こっちがある程度悪い場合もあります。

しかし、トラブルの場合に、そもそも何が「悪い」のかは個々人の立場によって違うし、一方だけが100%悪いわけでもない場合もあります。

だから、他人を叱責する際、叱責する側だって自らの言葉に責任を持つ必要がある、と自分は考えます。

その責任を「言いたくないけど……」という言葉で逃れようとする母に対して、

「実際に口に出してるなら言いたくて言ってるのと同じだろうが。いい大人が自分の言葉1つにも責任持てないのか?」

という文句を、自分も返してやりたくなることがあります(実際、昨日その「言いたくないけど……」を聞いた時、そう言い返したくなりましたがこらえました)。


母も、「女は腰かけ就職を経て主婦になる」という価値観が支配的な時代に生きてきた人です。つまり、家や組織や世間に対する責任を気にして生きるしんどさはあっても、現代の社会人のような「自立した個人としての責任感ある言動」を身につける必要も機会もなかったのだろう。そういうことは、理解しているつもりです。

それを理解した上でも、

「母から学んだ悪いコミュニケーションの癖が、自分の人生にいろいろと害を与えてきたのでは?」

と疑うことを、自分は正直やめられません。

実際自分も昔は、何か問題を起こした場合、うまく自分の責任をはぐらかせる言い回しを考える癖を持っていました。それで信頼を損なったことも、自覚しているより多いかもしれません。

だからその毒を今まで苦労して抜いてきたし、まだ残っているなら、これからも抜けるだけ抜いてやります。


悪いコミュニケーションのマナーをいろいろと教えてくれた母に、反面教師として感謝を捧げます。

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