おいしいたこ焼きは旅の果てに

@Kerotetto

【1話】冷凍たこやきが残り少ないと食べ切ろうとしていつもより量が多くなる。


住宅に紛れるように佇んでいる数少ない水族館

そこでは常に機械が鳴らす静かな重低音が響き水の滴る音が時折聴こえる

館内は薄暗く蛍光灯は切れている物が点在している

配管が蔦のように伸び、元は広かったであろう通路は肩を寄せ合うように置かれた機械のせいで手狭となっている

市民は数少ない生きている動物を直接見れるということでこの水族館は人気があり人足が絶えることはない



世界中を惨憺たる光景へと一変させた大事件「雪月事変」

今日は新たに発覚した新事実を踏まえつつ事件の顛末を振り返っていこうと思います。

事の始まりはデドストール国パウェイル市の線路,空港に多数のペストマスクを着けた黒いローブに身を包んだ人と思われるものが現れました。

黒ローブ達は線路を破壊し、空港内の機器の破壊や管制塔の占領をしました。

インターネットやSNSによってこの事態は急速に広まり世界中に混乱が広がりました。

車で逃げ出そうとする人が多かったため大規模な渋滞が発生してしまい、そこを黒ローブに狙われてしまったようです。

黒ローブが凶器をつかったという記録は現在でもあまり発見されていません。

殴打や足蹴など武器には頼らず自らの身体能力によるもの、そして体から伸ばされた針や触手などによるものが大半を占めています。

針や触手を伸ばすだけでなく体から鳥の翼のようなものをひろげ飛んでいたという記録も残っています。

パウェイル市の場合この騒乱によって死傷者が記録上では83万2786人ですが、記録されていないものも多いと考えられており実際には死傷者がもっと多いと考えられています。

この騒乱は世界中に感染するようにひろがっていきました。

結果的にこの騒乱によって世界の人口が10万分の1となりました。

黒ローブ達はある日を境に全く姿を表さなくなり、今日でも黒ローブの素性は一切判明していません。

生き残った人々は黒ローブたちから身を守るため巨大な壁をつくりその中に住むようになりました。

これが私たちの住む都市テライズが出来上がった経緯です。


雪月事変の....


ピッ


床に落ちていたリモコンを手に取りテレビの電源を切る。

雪原事変の特番はもう見飽きた、この時間帯でやってる番組は再放送のドラマぐらいだ。

ドラマを途中から見ても意味が分からないからつまらない。


あーーー


体全体が布団でくるんだかのように重い。


研究には目を反らして現実逃避しよう。


「たこ焼きが食べたい」

本物のたこ焼きを食べてから数か月も経ってしまった、長かったような短かかったような。

偽物のたこ焼きは朝食にも食べたけど思い出補正もあるかもしれないけれど本物とは程遠い味だ。

違いは食管や味わいの奥深さが全然違う、偽物は「たこやき」を突き付けてくる味。

本物のたこ焼きは高いから何とかして偽物を本物に近づけたい。

たこやきの材料を洗い出そう。


並べてつくった事務椅子ソファから立ち上がりホワイトボードの前に立つ。


カポ


ホワイトボードマーカーのキャップを開ける音は好きだ。

たこ焼きの原材料はタコ、たこやきの粉、卵...


[飼い主お昼の時間だぞ、ご飯くれ]


飼っているミンククジラの銀枝垂がテレパシーで昼食を要求してきた。

壁時計をみてみると時刻は11時を回っていた。


「分かった、少し待ってて」

[はーい、早くしてね]


銀枝垂の食料は共同冷蔵庫においてあるから防寒着を着ないと手がかじかんでまともに作業ができない。

出入り口のドア付近にあるポールハンガーから防寒着を身に着ける。


あと銀枝垂用の衣服類も忘れずに持っていく。

洗濯した影響か縮んできている、そろそろ限界が近そうだからまた新しいのを買わなければ。


「いってきます」


どれから聴こえてくるかも分からない機械の駆動音が狭い通路に反響し響いている。


この時間帯は寝ている研究者が多いから通路に全然人がいない。

なぜここの研究者の殆どは昼夜が逆転しているのだろう、普通に寝起きしていたら昼夜逆転は起こらない。


あの機械前みたのと変わっている。最新機にでも変えたのだろうか。

あわよくば中古品をタダでもらって改造して遊びたい。

まぁ無理だろう、ここらへんの研究所にいる人は使えるパーツは根こそぎとって有効活用する猛者が多くいる。


共同冷蔵庫に着いた。

衣服を共同冷蔵庫の前に置いておく。


熊一頭は飼えるぐらいに広い倉庫全体が自分の骨まで凍らせようしてくる。


「銀枝垂分の食料は4-7にあったはず..」


少し背を伸ばし陳列棚においてある自分のIDのラベルを確認して段ボールを手に取る。

段ボールの中を確認すると銀枝垂の食料である袋詰めされているゼリーがきちんと箱詰めされている。

荷物がちゃんと入っているかが確認できたのでこんな寒い空間からはさっさと出よう。


スリぃー!トゥー!ワン!スクラァァぁぁぁ!!!


この寒い空間から場違いも甚だしい叫び声が聴こえてくる。

どうやら声が聞こえてきたから考えるに冷蔵庫の玄関前で何かをやっているらしい。

正直あまり関わりたくはないが場所的に避けられない。


鉛を背負ったかのように重い足取りで音がした方に向かう。


冷蔵庫の扉の前に防寒具をみにつけた男2人が身を屈めて何かを見つめてる。

研究者仲間の中の二人で偶にコーヒーを交し合う仲だ。


左側にいるほうが話しかけてくる。

「よう!根島、おまえもやってみるか?」


コマのようなものを窪みの入ったボード内でぶつけ合わせている。


「いやそれ以前にこれは何?子ども用のおもちゃかなにかか?」

「んまぁ大体はそのイメージで合っているが、これはスクラップシュートと言って研究で出たスクラップをコマ状にしてぶつけ合う遊びだ」

「スクラップ..よくコマ状にできるな、嫌でも耐久度低くて壊れたりしないのか?」

「お、根島良い着眼点だな。それがこの遊びの醍醐味なんだよ!」


おもわず溜息が漏れてしまった。

それにしても、なぜこんな寒い冷蔵庫の中で遊んでるのだろうか、研究室内でもやれるだろうに。


「なんでこんな寒い中でやっているんだ?研究室とかあるじゃん」


右側にいる方が答える。


「研究室でやるとうるさいって言われる、壊れる時にスクラップが散るから研究室でやるのには向いてないし通路は狭い、そう考えると..」

「ここか」

「そういうことだよ」

「機会があったら今度遊んでもみていいか?今はお昼ご飯だから今はちょっと忙しくてな」

「じゃあ、またこんど」


ボードをまたぎ冷蔵庫の扉を開け倉庫から出る。


───


[B.I.O.Food]

ある研究所が開発した高カロリーな完全食。

一般人が食べるとカロリーの過剰摂取によって体調不良を起こす可能性がある。

錠剤タイプやゼリー型などさまざまな形がある。

味はオレンジやハニーレモンなどバリエーションは豊かである。


───


置いておいた衣服を拾い段ボールの上に置く。


銀枝垂を飼っている、というより住んでいる場所はこの共同冷蔵庫から少し離れているところにある。


銀枝垂の住んでいる水槽に行くには迷路を通らなくちゃいけない。

正直水族館の設計者に文句を言いたい、なんだよコンセプト「海に迷い込む」って。

おかげで道順を覚えるまで彷徨うことになった。


この虹色に淡く光る立方体の機械を目印に右に。

棺桶を立てかけたみたいな機械を目印にまっすぐ。

アーケードゲーム筐体を目印に右に。

人生で一度はいってみたい名言ランキングが書いてある暖簾をくぐり。

このドアが車の物に変えられてたドアを通ると銀枝垂の水槽が視界の端に映る。

到着。


「おまたせ」

[待った、今日も実験はないの?まだアイデアが湧かないの?]

「自分はアイデアマンじゃないから、凡庸な研究してもここにいる優秀な研究員には敵わない」

[なるほどねぇ、私である必要性がある実験じゃないと駄目なんだっけ?そりゃあ難しいね]


銀枝垂と会話(テレパシー)しながらゼリーの梱包をあけてバカでかい給水機にゼリーを流し込む。


[飼い主がやっている研究ってバイオってやつだよね]

「うん。戦闘技術革新生物、Battle,Innovation,Organismの頭文字をとってB.I.O.(バイオ)」

[前になんたらかんたらの論文を提出したら褒賞金もらってたじゃん、その論文の応用とかは?]

「“巨大生物による人型への再構築への変移と体内のB.I.O.cellの総数の推移”な」

[ながい、もっと短くしろ]

「うるせぇ、こういうのって長いほうが恰好がつくじゃん。で、応用をしていない理由は自分の論文を元に研究を進める人がいるからその人たちの研究力に敵わないから手を引いてる」

[あー、資金力とかたりないもんね]

「....」


資金が足りないのは事実なので何も言い返せない。

だから自分の研究所は自分一人しかいない、人を雇っていたら銀枝垂分の食料で資金が枯渇してしまう。


───

戦闘技術革新生物(Battle Innovation Organism)

略してB.I.O.

主に人間のDNAをベースに他生物の遺伝子情報を融合させる技術。

融合させた他生物の遺伝情報を自身の肉体上に発現させることができる。

腕を融合させた他生物の触手や牙にしたり棘を発射することができる。

身体能力や自然治癒力が向上する。


B.I.O.Cell

B.I.O.の肉体を形成する人工細胞。

細胞分裂の速度が通常の動植物よりも格段に早い。

搭載された他生物の遺伝情報に基づいて骨格や筋肉などの体の形質を体組織ごと変異、形成させる。

───


「あ、テストの変異やるぞ」

[はいはい、インナーとかはいつものとこに置いておいてね」


そういうと銀枝垂は水槽内にある更衣室に泳いでいく。

更衣室とはいってもカーテンレールはなく上から見えないようになっていているだけである。

元々は水槽にいる動物と触れあえるというスペースだったらしく、それを改築したものだ。


更衣室の前に濡れないようにそっと衣服類を地べたに置く。


しゅち..しゃちゅ..ぬぁち..ちゅ


更衣室から冷凍された肉ですり合わせたような音が聴こえてくる。


───....


しばらくすると更衣室からペールオレンジ色の物体出てくる。


 根島からりんご一個分は小さい身長に孔雀青色の瞳、腰の上部までかかる艶がある漆黒の髪


それは紛れもなく人間であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おいしいたこ焼きは旅の果てに @Kerotetto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ