第3話(別) 冬を待つ
わたしは高校一年の夏休み明けからアメリカにある、日本人が運営する高校へ転校した。運営の何人かは父と長い付き合いがあるという後輩たちだ。周りには日本人とヒスパニック系の人ばかりで、思い描いていたアメリカとはかなりずれがある。
細かいことはもちろん説明せず、わたしをどこかへ連れ出そうとする人は遠ざけてほしいと頼んだ。最低限の身の回りのもの以外全部捨てた。
高校二年生(数え方が違うので「二年生」ではないけど)になって始めは何もなかったが、春先にわたしが追いかけられるという事案が発生した。そして八月、日本ならお盆の時期に、東海岸側にある私は名前を聞いたこともない大学の教授を名乗る人が私に会うために家まで来た。
その大学名を聞くと、その場にいた父の同僚が嫌そうな顔をした。このあたりではあまり知られていないが、その大学のおひざ元では絶大な人気と卒業難易度を誇る大学なのだという。
「日本のXXX教授の弟子であるサナエくんから、秘匿されている内容も含めて、すべての事情は聞きました。」
その教授は流ちょうな日本語を話した。早苗さんからの手紙ももらった。その大学には、早苗さんたちのような特殊な分野の民俗学を研究する人達が居て、わたしのような巻き込まれた人を助けるために戦っているのだという。
「あなたが出会った、そして再会させられようとしていた者たちは、土地を守る土着神などではありません。そして、ここは既に彼らの目が届いています。」
そんなこと、既にうすうす感づいていた。友達が学校で白い蛇を見たといった時、怖くて泣き出してしまい、蛇の話はされなくなった。みんなわたしが蛇恐怖症だと思い込んでしまってるくらいに、わたしは蛇を恐れた。母と同じだった。
* * * * *
結局わたしは九月になる前にM大学の研究室棟で研究者の一人とともに暮らすことになった。研究棟と学食と購買と図書館を、決まった廊下を通って往来することだけ約束させられた。そこだけは、外に蛇が居ても、窓が開いていても近づいてこなかった。
何も、起きないと信じたかった。九月の末、見せたくはないが、あくまで君当てだからと前置きして、同室の研究者さんが早苗さんからのエアメールを見せてくれた。開封済みで、手紙は消毒液か何かで濡れていた。中身は既に教授たちが対処済みで、ただの写真と手紙だと彼女は言った。
写真には、早苗さんが生まれたばかりの「しろかみ様の子」を抱いている姿が映っていた。背後にはたくさんの白い人がいた。手紙には丁寧な時候の挨拶と、早苗さんにとっては普段の、だけど異常としか思えない生活が、まるで軽いやりとりのように書かれていた。そして、アメリカのM大学のマークが入ったものを身に着けた二〇代の男性を一人捕まえて『お話し』したと書かれていた。
その少し後、わたしは図書館の奥にある会議室で教授と、これまであったことがなかった早苗さんの先生であるXXX教授の二人から、白い人の住処を爆破したと聞かされた。人への直接的な影響はないが、周りの動物の移動で、しばらくはふもとに獣害があるかもしれないという。
「先に外に逃げていない限り、すべて死んだ。合計でXX体の個体を確認した。だが、君を帰すわけにはいかない。」
教授たちが言うには、世界中に、あんな蛇人間みたいな生き物が生息しているのだという。蛇がいる限り、必ず彼らの仲間のもとへわたしの生存は伝わる。たまたま、あの場所の生き物は他の同様の蛇人間との交流を持っていなかったようだ。だが、交流はないが他の蛇人間たちは彼らのことを、そしてわたしを知っているのだ。
どこにも逃げ場はない。少なくとも主だった蛇人間が全て滅びない限りわたしはここから出られない。
山の奥には「誰か」がいる 朝宮ひとみ @hitomi-kak
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