第3話 レジスタンス

 「あんた、どこでやってたんだい?」ミーガンは腕組みしながら言った。路地裏は冷えた。


 「なにをやっているんだ?」ベイクが訊いた。


 「あんた戦士だろ。わかるぜ。筋肉とか骨格とか、手つきとかでな。右肩がやや筋肉があるとことかな。物腰とか歩き方もな。何処から来た?」ベイクを足先からつむじまでじろじろ見た。


 「まあ、傭兵くずれさ。今は休業中だ」ベイクは嘘をついた。王直属の神聖騎士団団長だった事は言わなかった。言っても分からないかもしれないし。


 「俺も前は傭兵だったのよ。何処にいた?ベルドナド傭兵団か?アケアカ組か?小さいトコか?」


その大手の傭兵団なら王宮でも使った事がある。人手がいる時はよく頼んだものだ。ベイクは適当にごまかしといた。


 「あんた何しにここへ?」ミーガンはベイクに興味深々だった。いや、彼にも目的があったのだが。


 「いや、まあ足が向いたから来ただけだよ。今は旅をしている」


「旅か!いいなあ」ミーガンは野性味溢れていて、男らしい。


 「ここの住民はあのアッチェラにひどく傾倒しているな」ベイクは辺りを窺いながら言った。彼は五感を極限にまで鍛えている。


 「傾倒なんてレベルじゃない。神だよ。あいつが居なければ生活出来ないくらいだ」ミーガンの顔が曇る。


 「生活出来ない?」


「そうさ。この産業のない村を裕福にしたのはあいつだからな」


 「どうやったんだ?」


「最初は半信半疑だったがな。あいつの言う通りに山を掘ると宝石や金が出てな。予言とか言って。最初はこの村に現れて、近くに住む邪竜がこの村を不幸にしている、その力を封じなければならないとか言い出して。みんな聞いていなかった。アッチェラは1人で山に赴き、邪竜を退治してきた。それであいつを信じ始めたんだ」


「ドラゴンを1人で退治?」信じられない。

 「集落から北に高い岩山があってな。そこで退治してきたらしい。それから予言を始めてな。みんなアッチェラ様の為に聖堂を建てようってな具合さ」


予言。奴も術士か。人間じゃないかも。


 「あんたはみんなとは違うらしいな?」ベイクは訊いた。


 「俺は幸福じゃないからかな」ミーガンは笑った。「なんかあいつにはただならぬ気配を感じていてな。別れた女房と娘がいるんだが、何とか救い出したいというか、助けてやりたいと思っている。まあ、それは村の皆に言える事なんだが」


「ただならぬ気配?」


「なんか人間じゃないみたいだ。そう感じないか?」


「やつは恐らく化けているな。ドラゴンは聖獣、それもあのホワイトドラゴンは神の使いだ。俺が昔いた軍の象徴だよ」ベイクは頭を掻いた。


 「俺は1人で、あのアッチェラの正体を暴く機会を伺っている。同志が欲しい」ミーガンは真正面からベイクを見据えている。そろそろ人気も無くなってきた。気づけば静かで真っ暗になっていた。


 「何というか、慎重にした方がいい気がする」ベイクは試みる気になっていた。彼や村を助ける善意というより、あの聖獣が目に焼き付いて離れない。彼からしたらアッチェラを暴いて裁くには十分な動機だった。


 「2人だけのレジスタンスって訳だな」


「集落の人口は1000人。みんな恩恵を受けて生活している。俺は断っているがね。というか表向きは受けているが」ミーガンは複雑な顔をした。「頼むよ。協力してくれ」


ベイクは同意した。

 あの司祭、如何なる動機でこんな村を手玉にとるのか。ホワイトドラゴンに打ち勝つ力を持ちながら。

 2人は家路についた。

 しかし、目に見えぬ力は2人を捉えていた。


 

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