第30話『帰還』
「あっ、お帰りなさい、ウィルさん。今日も1日、お疲れさまでした」
「あぁ、その……ありがとう」
先程の騒動の後、何とか無事に街門を通る事が出来たウィリアムはようやく冒険者ギルドの受付にへと辿り着いた。
そしてそんなウィリアムを行きと同様に受付嬢のアイリスが出迎える。彼女は受付嬢としての役割上、柔らかな笑顔でウィリアムを出迎えたが、それとは対照的にウィリアムは疲れ切った表情をしていた。
本来であればもっと早くに辿り着いていたものの、ここまで来るにイヴのせいでかなり時間が掛かってしまい、ウィリアムの疲労度は溜まりに溜まっていた。
元々、ウィリアム自身も別の依頼に当たっていてからイヴの付き添いをしていたのもあり、彼の心境としては早く用を済ませて帰って休みたいという心境であった。
「イヴさんとの同伴依頼、ありがとうございました。詳しい話はまだ聞いていませんが……どうやら大変だったみたいですね。やっぱり相手は新人さんですから、相当にご苦労されたんじゃないですか?」
「いや、それは……」
アイリスからそう尋ねられ、ウィリアムは言葉に詰まった。確かにアイリスの言う通り、イヴと一緒に行動をしたこの数時間は大変だったり苦労もした。
しかし、その時間の中で起きた出来事を簡潔な言葉にして纏め、アイリスに伝える事は出来ない。口下手でもあるウィリアムにとってはそうした事は難しかった。
だからこそ、1つ1つの出来事をしっかりとアイリスに伝えていく。ウィリアムが選んだ手段はそういったものだった。
「とりあえず……そうだな。色々と伝える事はあるが……まずはこれが依頼分の薬草だ。確認を頼む」
「はい、かしこまりました。それではお預かりしますね」
ウィリアムはブレナーク山で採集した薬草の入った収集袋を受付台に置き、それをアイリスは回収をして中身を検め始めた。
袋の口を開けて中に手を入れ、沢山ある薬草の山から頂上のほんの少し、一握り分を手に取ってそれを依頼品として相応しいかを確認する。
「えーっと、そう……ですね。はい。依頼品で間違いありませんですし、問題ありませんね」
アイリスはそう言うと手に取った薬草を袋の中に戻すと―――それ以外の薬草の検品もせずに袋の口を閉じ、台の上から自分の足元にへと収集袋を下ろした。
「それじゃあ、これにて依頼は完了で……」
「いや、おい待て。ちょっと待て」
何事も無かったかの様に終わらせようとするアイリスに対し、ウィリアムはじっとりとした目を向けながらそう言った。
「はい?」
「はい、じゃない。こんな事を冒険者側の俺が言うのも何だが……そんな雑さで大丈夫なのか? ギルド職員として問題にならないか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。問題にはならないですし、そもそも私がそんな、問題になんてさせませんよ」
アイリスはそう言ってきっぱりと、はっきりとそう言ってみせた。それも笑みを浮かべてである。
「いやいや、あのなぁ……お前、それで間違って雑草でも混じっていたらどうするんだ。依頼品と違うものが提出されて通していたら、それこそ信用問題に―――」
「だから、大丈夫なんですってば。だって、ウィルさんが一緒に着いていましたから。私がここで全部を検めなくても、特に大丈夫そうだとは思いますけど」
「いや、それでもだな……」
「それにそうじゃなきゃ、イヴさんに同伴させた意味がありませんよ。世話焼きのウィルさんの事ですから、しっかりとその都度で確認はしているでしょうし。これはですね、私がウィルさんの人間性を信用して通しているんです」
「……」
アイリスからそうした説明を告げられて、ウィリアムは次の言葉を紡げなかった。それ以上の追及を続ける事は断念せざるを得なかった。
「納得が頂けたのであれば、これにて依頼は完了という事にさせて頂きます」
「あ、あぁ……」
「そんな杓子定規にこだわらないで、こうした事は早めに終わらせてしまうのが一番ですから。私もこんな単純な確認作業なんかで時間を掛け過ぎた結果、帰りが遅くなって残業だなんて真っ平ごめんですので」
「……おい。それが本音なんじゃないか」
「さぁ、どうでしょうね」
ふふふとアイリスは微笑んで揶揄う様にしてそう言ってきた。それを聞いたウィリアムは軽い溜め息をその場で吐くのだった。
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