第28話『適性』
「……ずいぶんと器用な真似が出来るんだな」
イヴのそうした行動を横から見ていたウィリアムは、彼女へそんな感想を漏らした。
「……? 器用だなんて、そんな……こうして火を出す事ぐらい、誰でも出来そうな感じですけど……」
口の中にある干し肉を良く噛んで咀嚼し、それを飲み込んだ後、イヴはウィリアムに向けてそう答える。
「誰でも出来そう……って、あのなぁ。まずその考えからして間違っている訳なんだが……」
「……?? 別に何でもない、私がしているのはただ火を出しているだけですし、それだけなんですけど……」
「いや、その認識がおかしいんだ。火を極小状態に維持をさせて発動させるのは、かなり技量の問われる事だ。俺は昔、知り合いからそう聞いたぞ」
「えっ? そうなんですか?」
きょとんとした仕草をしてイヴはウィリアムにそう尋ねる。
「実戦で何度も火魔術は見てきているが、俺が見てきた中では生活用にそこまで調整して扱っている魔術師は君が初めてだと思う。それに、そもそもだが……君は魔術適性について理解をしているのか?」
「魔術……適性?」
「……その様子だと、やっぱり知らないのか。いいか、火属性に適性が無ければ火の魔術すらも扱えない。君が出した様な小さな火であっても出す事は出来ないんだ。その他の属性についても同じ。適性というものはそういう事だ」
「適性が無ければ、扱えない……」
「俺でさえ当たり前に知っている事なんだが、それさえも君のお師匠様とやらは教えなかったみたいなんだな」
「そう、ですね……そんな言葉、初めて聞きました。お師匠様、どうして教えてくれなかったんだろう……」
ウィリアムやほとんどの者からすれば適性があるというのは一般常識的な事ではあるが、イヴはそれを知らなかった。
(―――これまでの数時間の中で彼女の知らなさ加減についてはある程度知分かっていたつもりだったが、それさえも知らないとはな……)
目の前にいる少女はこれまでの人生において何を学んできたのか。また、お師匠様という存在に彼女は何を教えられてきたのか。ウィリアムの疑問は深まるばかりであった。
「……ちなみにですけど、ウィリアムさんはその……適性、というものはあるんでしょうか?」
「俺に適性? 俺はそんなものは持ち合わせてはいないよ。仮に持っていたとすれば、こうして剣なんて帯びずに君みたいに少しは魔術でもかじっていただろうさ」
「それなら……ウィリアムさんはこうやって火を出せないという事ですか?」
イヴはそう言うと、確認する為か右手を開いて手のひらを上にへと向け、そこから拳大程の火を生み出した。
先程の極小の火では無く、煌々と燃え盛る炎。そしてイヴはなんとその魔術を『無詠唱』で『杖という媒介も使わずに』発動させたのだった。
「……は?」
「知らなかったです……お師匠様も普通に使っていましたし、私もそうだったので……てっきり、普通の事だと思ってました。でも、なるほど……適性が無いと使えないんですね。勉強になりました」
「いや、その……」
「ウィリアムさん、教えてくださってありがとうございます! 私、また1つ成長が出来ました!」
「いや、ちょっと待てっ!!」
「……?? あの、どうかしましたか?」
右手上に炎を燃え上がらせながらイヴは首を傾げ、不思議そうにウィリアムにへと問い掛けた。
「どうかしましたか、じゃなくて……君のそれ……その魔術はどうやって発動させたんだ!?」
「どうやって、ですか? えっと、こうですけれど……何かありました?」
イヴはそう言うと、今度は逆側の手。左手の手のひらから炎を生み出した。これについても彼女は何でもないかの如く、ごく自然に生み出してみせたのだ。
「――――――」
ウィリアムはそうした一連の流れを見て、口をぽかんと開いてただただ絶句した。今まで培ってきた知識や経験、記憶といったものを総動員させたとしても、目の前で起こった事について理解が追い付かなかった。
魔術というものは本来、超常的な力を扱う為にはその魔術に関連した詠唱や放出する為の媒介が必要とされており、おいそれと簡単に発動出来るものではない。故に、例え熟練した魔術師であったとしても、無詠唱で魔術を発動させるのは困難とされている。
余程に魔術に精通をした大魔術師であれば違うのかもしれないが、普通であれば出来ないというのがウィリアムが知っている常識であった。しかし、その常識が今、ウィリアムの目の前で覆された。
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