第20話『勝利の後は』
「よっ……と」
イヴが繰り出したドロップキックによって
彼女は見事な一撃を決めただけでなく、猪の頭部を蹴った反動を利用して宙返りをし、見事な着地を決めてみせた。
戦闘の最初から最後まで、冒険者として新人であるはずのイヴはウィリアムの助けを一切借りず、全てにおいて一人で完璧に立ち回ってみせたのだった。
「た、倒した……のか?」
そんなイヴの下に、ウィリアムは恐る恐ると近付いて、そう声を掛けた。
「あっ、はい。ちゃんと倒せたと思います」
「……本当に大丈夫か? 何なら確かめた方が―――」
「いえ、大丈夫です」
ウィリアムがの言葉を遮って、イヴがはっきりとそう告げてきた。
「だって、蹴った時に確かな潰れる感触があったので、即死だったはずですよ。なので、問題ありません!」
「そ、そうか……」
活き活きとそう語るイヴに対し、ウィリアムは苦笑い気味となってそう答えた。彼女が発した言葉の中に突っ込みどころが何か所かあったが、ウィリアムはそれについては触れないと心の中で決める。
その中でも特に、イヴの言う『潰れる感触』について言及したい気持ちもあったが、聞いたら聞いたで気持ちが悪くなりそうだったので、それも止めた。
(―――しかし……何だったんだ、今の一連の光景は……)
自分は白昼夢でも見ていたのではないか。そう誰かから言われれば、ウィリアムはそうだったと信じてしまうだろう。それぐらいにウィリアムにとって、先程の戦闘は衝撃的であって、信じ難い光景でもあった。
(魔術師は本来なら後衛職。前面に出て戦うのは苦手なはず。そんな彼女が……あれ程の近接戦闘をしてみせるだなんて……)
ナイフの扱いにしても、接近してからの動きにしても、身のこなし方も。とてもじゃないがイヴのそれは素人芸には見えない。
これまでに何度か似た様な経験を、何かしらの戦闘訓練を積んでいた様な動きだったとウィリアムは考える。
(……それに彼女の扱った魔術にしても、普通の魔術師と比べてもかなりかけ離れている。あんな使い方、これまでの経験の中では見た事がないぞ)
イヴが唱えた3つの魔術。その内の
だが、
今までウィリアムが培ってきた経験、彼がこれまで見てきたベテラン、熟練の冒険者でも、イヴの様な魔術の使い方はしてこなかった。
だからこそ、イヴのした使い方は異常だと、異端だとも思えてしまうのだった。前例の無い事なのだから、そう考えてしまっても不思議ではなかった。
(元々、そうして扱えるはず魔術だったのに、長く使われていく中でそうした発想に気づけなかったのか。それとも、彼女が特別なのか……)
それをウィリアムが1人で議論をしても、答えに辿り着けるはずがない。戦士職であるウィリアムには、魔術の知識は人並程度にしか持ち合わせていないのだから。今はそう、考えるだけ時間の無駄だった。
それよりも、今のウィリアムに必要なのはそれについて考えるのではなく、もっと重要な事がある。それは下山についてだ。
元々、イヴにそれを伝えようとしたところで、あの猪と遭遇してしまったのだ。それ故に、彼女には下山をするという旨は伝わっていないのだ。だからこそ―――
「よい、しょっ。それじゃあ、早速―――」
イヴは動かなくなった猪に近寄ると、屈んでから突き刺さったナイフを躊躇する事も無く2本とも抜き取る。
抜き取った際に傷口から血が飛び散ってはいたものの、それさえもイヴは気にしはしなかった。
抜き取ったナイフの内、1本は付着している血をぬぐい取ってから、元々の収納をしていたローブの内側へと戻した。
そして残った1本は手にしたまま、空いている手を使って倒れている巨体を起こそうと試みていた。
(……まさか)
イヴのそうした行動や姿を見て、ウィリアムはイヴがしようとしている事を察った。それは悩む事も無く、簡単に分かってしまう事だった。
「……なぁ、ちょっといいか?」
「はい? どうかしましたか?」
猪の前足を掴んだまま、イヴがそうウィリアムにへと聞き返す。
「君はその……今から何をしようとしているんだ……?」
「何をって……晩御飯の為にも、解体するつもりですけど。そうしないと、食べれないじゃないですか」
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