第15話『初依頼』



 ―――ブレナーク山。


 エイスの街近郊に位置しており、標高はそれ程高くは無い。地形としては緩やかな土地であり、木々や川といった自然の恵みが多い場所だ。


 ここでは食用出来る山菜や果実、薬用として重宝される山草やキノコが自生している他、山中に点在する洞窟内には鉱石などの資源も採集できる。


 基本的にこの地では魔物は生息していないので、冒険者で無くても近隣の民衆が採集の為、山に踏み入れる事もある。


 しかし、魔物は生息していなくとも危険な害獣、または魔獣が出没するので、一般の人間がそういった手合いに出くわせば無事では済まないだろう。


 自衛の出来る者は別だが、武器を持たない民衆ではまともに太刀打ちは出来ない。怪我で済めば良い方、最悪な状況としては獣達の餌となる運命が待ち受けている。


 そうした危険性を踏まえてか、金銭を支払う事になっても自分達に代わって採集を冒険者に依頼をするのが実情である。


 自分たちの命と金銭を天秤に掛ければ、そうした判断は正しいものだといえる。ただし、そういった手段が取れるのは金銭的に余裕のあるもの達だけ。


 依頼料が払えない者達は冒険者に頼む事が出来ず自らが乗り込み、そして不運にも命を落とすのだった。


 ―――さて、それはさておき。


 依頼を受けた冒険者達がこの山でする事はというと、主には資源採集や狩猟、それか害獣退治といった3つの中のどれかである。


 戦力の無い者はなるべく戦闘を避け、資源を集めて資金にする。実力のある者は狩猟や害獣退治で経験を積み重ね、自らの水準を上げる。


 危険度としては低いので、武装をした冒険者が命を落とす事例は非常に少ない。なので、多くの新人冒険者がこの山で経験を積む。謂わばここは冒険者のチュートリアル的な場所だ。


 そしてウィリアムも新人の冒険者となったイヴに経験を積ませるという目的の為に、依頼を受けてこの山にへと連れてきたのだった。




******




「―――あの、ウィリアムさん」


「……ん? 何かあったか?」


「えっと、依頼の前に聞いておきたい事があるですが……」


「あぁ、いいぞ。それで、何が聞きたいんだ?」


「その、依頼って何をすればいいんですか?」


 人間の身長よりも遥かに背の高い木々に囲まれた森林の中。イヴは黙々と草木を分けて歩き続けるウィリアムに向け、そんな疑問を口にした。


「そうだな……今回に関しては、採集の依頼だな」


「採集……?」


「依頼主が集めてきて欲しいという物があって、それをギルドに注文をし、俺達がそれを探して集めてくるんだ。それが採集依頼だ」


「あ、そういう事ですかっ! それで、今は何を探しているんでしょうか?」


「薬草だ。ポーションの材料にもなる、貴重な種類の物だな」


 ポーションとは水薬の名称であって種類によって様々な効果がある。力を増強するものもあれば、俊敏さを上げるものもある。


 今回の採集で取った薬草で作られるポーションは回復薬としてのもの。それを使用すれば、傷の治りが早くなるという代物だ。


 しかし、傷の治りを早くする効果である為、欠損してしまった傷に対しては効果は無い。それを治すにはまた、別のポーションが必要になってくる。


「もしも実物が分からなければ、これに書いてある」


 ウィリアムはそう言いつつ、雑嚢の中に手を入れて中を漁る。そしてある物を手にすると、それを取り出してイヴにへと差し出した。


「この書類を見て確認するといい」


 ウィリアムが取り出したのはアイリスから渡された控えの書類だった。


 書類は全部で2枚あり、1枚目は依頼の内容。2枚目には対象となる採集資源の名称、それから実物の絵が載っていた。


「文字が読めない冒険者でも分かる様にギルドは絵も載せているが……読めるのなら問題は無さそうだな」


 イヴはウィリアムから書類を受け取ると、その内容に目を通していった。


「―――なるほど。つまりはこの薬草を見つけ出して、ある程度の量をギルドに持って帰れば依頼は達成された事になるんですね」


「まぁ、その通りだ」


「……これって、簡単過ぎませんか?」


 イヴはそう言いながら首を傾げ、ウィリアムにそう言った。あまりの依頼の簡易さに疑問が生じての事だ。



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