第13話『善意の代償』



「……」


「お願いしますっ! 私と、パーティを組んでくださいっ!!」


 イヴからそう提案をされたウィリアムだったが、彼はすぐには返事をしなかった。困った様な表情をし、どうしようも無い感じに後頭部を掻いた。


 (あぁ、やっぱりこうなったか……)


 ウィリアムとしては、こうなる事を何となくは予測は出来ていた。イヴがアイリスに依頼を斡旋するのを断られた時。アイリスの説明の中でウィリアムの冒険者としての実情を明かされた時。


 話の流れとして、アイリスがイヴの面倒をウィリアムに任せようとしていたのは分かり切っていた。でなければ、アイリスもあんな話し方をしたりしないし、会話に口を挟んだりはしない。


 (俺としては、ただの道案内で終わるつもりだったんだがな……)


 ウィリアムはそう考えつつ、イヴと初めて出会い、話し掛ける前の事を思い出す。


 不用意に他人と関わった事で何かしらのトラブルに巻き込まれる。ウィリアムが話し掛ける事を躊躇った理由であり、彼が懸念していた事だった。


 そして今がまさにその状況だった。不用意に関わったからこそ、現在は困った事態になっている。


「はぁ……」


 ウィリアムは重く、そして大きくため息を吐いた。そうでもしなければ、やっていられなかった。


 そうしてからウィリアムは渋々ながら決心をする。加えてこれは仕方がない事だと割り切り、視線をイヴからアイリスの方にへと向けた。


「―――アイリス。確か、まだ……依頼が何件か残っていると、さっき言っていたよな?」


「あっ、はい。そうですね。数は少ないですが、まだ残ってはいます」


「悪いが、それを見せてくれないか? 残っているもの全てだ」


「―――分かりました。今、用意させていただきますね」


 ウィリアムからの要請を受け、アイリスは端に寄せていた依頼の内容が書かれた書類を手に取って、それを見やすい様に纏める。


「お待たせしました。こちらが今現在、当ギルドに残っている依頼になります」


 そして纏めたものをウィリアムから見て正面になる様に書類を差し出した。


「あぁ、ありがとう」


 アイリスから書類の束を受け取ると、ウィリアムは1枚1枚の内容を確認し、じっくりと眺めていく。


「討伐依頼は……この時間からは厳しいな。狩猟も……同じだな。時間が足りなさ過ぎだ。日を跨いでしまう」


 条件の合わないものは束から外していき、受付台には別の山が積みがっていく。そうこうしている内に書類の枚数は次々と数を減らしていった。


「そうなると……この辺りが妥当か」


 ウィリアムの手元には数枚の書類しか残っていない。それはどれも、採集依頼と呼ばれる依頼に関する書類だ。


「この依頼で頼む」


 その中からウィリアムは適切だと思える内容のものを選ぶと、それをアイリスにへと渡した。


「こちらの依頼ですね。かしこまりました。それで、依頼に行かれる人数はどうされますか? いつも通りに『1人で』行かれますか?」


「―――いや、今日は2人だ。彼女も……イヴも連れていく」


「あっ……」


「パーティでの依頼だ。頼んだぞ」


「はい、承りました。では、その様に受付させていただきます。連続の依頼で大変かもしれませんが、よろしくお願いしますね、ウィリアムさん」


 アイリスは渡された依頼の受付を済ませると、ウィリアムにへと控えの書類を手渡した。控えの書類には簡素ではあるが、依頼の内容が記載されている。これで依頼中でも内容が確認が出来る。


 それをウィリアムは雑嚢の中にへとしまい、それからイヴにへと視線を移した。


「そういう訳だ。こんな時間まで残っている様な、誰もやりたがらない簡単な依頼だが、それでもパーティを組むんだ。よろしく頼む」


「―――はいっ!! よろしくお願いしますっ!!」


 イヴはそう言ってからウィリアムに深く頭を下げた。一時は難しいと思われた依頼の受付だったが、ウィリアムの善意のお陰で何とか通る事が出来た。


 それからウィリアムはギルドの建物前で待っていて欲しい事をイヴに告げ、それに従って彼女はギルドの建物から出ていった。


 受付の前に残ったのはウィリアム、それとアイリスの二人だけとなった。そのタイミングを見計らってか、ウィリアムはアイリスにへと向けてこう言った。


「―――これで満足か?」


「えぇ、ありがとうございます。お陰様で助かりました」


「全く……本当にそう思っているなら、何か俺にその分の特別手当を出してくれてもいいと思うが」


「あぁ、申し訳ありませんが、それは承諾しかねますね。ギルドとしましてはそんな特例はありませんので。ですから、ウィリアムさんだけを特別扱いは出来ませんよ」


「……俺に彼女を押し付けようとしていた癖に。お前も良く言うよ」


「はて、何を言っていますのやら」


 ウィリアムからの言葉に対して、アイリスはとぼける様にそう口にした。


「お前なぁ……」


「ちなみに、その証拠はどこにあるんですか? 別に私、そんな事をしようとはしていませんし、ウィリアムさんが勝手に、自分の意思でイヴさんをパーティに加えただけでしょう」


「……はぁ」


 いたずらっぽく笑いながらそう語るアイリスを見つつ、ウィリアムは2度目のため息を吐いた。自分が何かを言ったところで彼女には適わない。そう観念してかこれ以上の追及は諦めた。



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