第12話『パーティ』

 



「えっ!? ど、どうしてですかっ!?」


 それを聞いたイヴは酷く驚いていた。依頼を受けたいと言えば受けれると思っていたので、断られるとは思ってもいなかったからだ。


「イヴさんは先程、ご自分の職業を『魔術師』と記入されましたよね」


「あっ、はい。私は一人前の魔術師になりたいので、そう書きましたけど……」


「ギルドとしましては、魔術師の方が1人で冒険に行く事を推奨はしておりません。余程の実力や実績があれば別ですが、今のイヴさんにはそのどちらの資格も持ち合わせていないと思います」


「そ、その……が、頑張ればっ! えと、何とか……」


「あのですね……頑張ったところで、何ともならない問題だってあります」


 アイリスはこめかみに指を当てて、込み上げてくる感情に耐える様にしてそう言った。


「それに冒険には危険が伴います。命に係わる問題ですので、必ずパーティを組んだ上で行動する様にしてください」


「ぱ、ぱぁ……てぃ……?」


 聞き慣れない単語なのか、イヴはたどたどしくその言葉を口にする。冒険者を目指す者であれば、普通なら知っていて当然の言葉であるが、それをイヴは知らなかった。


 そうした反応を踏まえてか、アイリスはイヴに向けてもう少し踏み込んだ説明をする事にした。


「パーティを組むというのは、2人以上の人数で冒険に行く事です。1人だけでしたら出来る事は限られてきますが、人数が増えれば出来る事の幅も広がってきます。そして安全性も1人よりも向上するという事です」


「2人、以上……。……! それでしたらっ―――」


「もちろん、対象者は冒険者登録をされている方だけですので、間違ってもその辺りにいる一般の方を連れてきてパーティを組んだとは言わない様にお願いします」


「あっ、はい……気をつけます」


 アイリスもイヴの事が分かってきたのか、彼女に対してそう注意する事を忘れずに伝える。冒険者の事をまだ良く分かっていないイヴならやりかねない。ウィリアムもその意見には同意であった。


 下手をすれば冒険者でも一般人でも無く、間違って警護をしている街の兵士に声を掛け、連れてくるかもしれないとも思えた。


「えっと、そうしますと……これと同じ認識票を持っている人を探して、その人とパーティを組めれば依頼を受けれるんですね」


「はい。それであればこちらも安心して、イヴさんに依頼をお願いする事が出来ます」


「分かりました。じゃあ、頑張って探してみます。……ちなみにですけど、そういう人はどうやって探せばいいんですか?」


「そうですね……例えばですけど、酒場に行ってパーティメンバーを求人する、というのも1つの手ですね」


「酒場……ですか?」


「はい。ギルド内にある施設の1つです。そこでは飲食も出来ますが……今はそれについては関係ありませんね。なので、割愛します。ただ、あそこでしたらベテランから新人まで、色々な冒険者の方々が良く集まっていますから。ただ、今ですと……」


 そう言ってからアイリスは視線を横にへと逸らした。彼女の視線の先には今しがた説明をした酒場があった。


 ただ、そこにはアイリスが説明した様な冒険者で賑わっている様子は見られなかった。人の気配はあまり無く、閑散とした感じである。


 それもそのはずである。今の時間であれば冒険者は外に出向いていて、酒場に集まったりはしない。賑わうとすれば、それは冒険が終わったであろう夜の時間帯だ。


 イヴとしては今から直ぐにでも依頼を受け、冒険に行きたいのだから夜まで待つというのは彼女の要望としてはそぐわない形となる。


 中にはこんな時間でも足を運んでいる者もいるかもしれないが、そういった者は既に出来上がっている状態なので、冒険に連れていくには相応しくは無いだろう。声を掛けたとしても、邪見に扱われるだけだ。


「それじゃあ、どうすれば……」


「後はこの受付に来ている人に声を掛けるのが確実だとは思いますが、そういった人のほとんどは別の誰かとパーティを組まれている事が多いです」


「はい……」


「組んでいないとすれば、イヴさんみたいな新人さんや、ウィリアムさんみたいにパーティを組まず、『一人で』活動されている方になりますね」


「おい……何でそこを強調したんだ」


「いえいえ、別に他意はありませんよ。たまたまです。たまたま」


 アイリスはそう言ってはぐらかすが、その会話を聞いていたイヴはその中にあった言葉の一つに反応し、アイリスからウィリアムにへと視線を移した。


「ウィリアムさんって……1人で活動されているんですか?」


「いや、その……まぁ、そうなるな。大概は、ソロでの活動だな」


「大概は、じゃなくていつもの事でしょう。他の誰かと組んだ事は、ここでは一度もありませんよね」


「だから、あのなぁ―――」


「あ、あのっ!!」


 アイリスの不自然な絡み方にウィリアムは苦言を呈そうをした―――その時だった。イヴは大声を張り上げて、ウィリアムにへと向けてそう言った。そして―――


「そういう事でしたら、私とパーティを組んでくれませんか!?」


 そんな提案を、イブはウィリアムにへとしたのだった。



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