第8話『冒険者ギルド』

 



 ―――エイスの街。辺境にある街の1つ。


 この周辺地域においては一番発展している街であり、それなり数の住民がここで暮らしている。


 しかし、ここエイスには名所と呼ばれる場所は特に無く、娯楽の面も他に比べれば乏しいというのがこの街の現状である。


 流通においても栄えているとはいえないこの田舎町。そんな中でも1箇所だけ、賑わっている場所があった。


 それが街の奥地にある大きな建物が冒険者ギルド、エイス支部である。この周辺だけは他と色合いが違っている。


 街や都市によっては入って直ぐの近場に建てられる事が多いが、ここエイスでは後付けで建てられたが為に奥地に位置している。


 冒険者ギルド―――これは冒険者達を支援、そして管理する為にある組合である。


 一昔前までは冒険者という職業は存在せず、巷では組織に属さないならず者達で溢れかえっていた。


 そういった者達の大半は食い詰めている場合が多く、下手をすれば野盗や暴徒と化して問題となっていたのだ。


 ただでさえ世の中では魔物や害獣被害が頻繁に起きているというのにも関わらず、更にそういった輩が暴れられては治安は悪くなる一方だ。


 そうした窮状を憂いてか、国や自治体がとうとう対策に乗り出した。それが冒険者ギルドであった。


 まず初めに運営を取り仕切る組合を資産を出して設立し、力を持て余したならず者達に依頼や仕事を斡旋する仕組みを作った。


 そしてその達成具合に応じてギルドから資金を提供するのだ。その額面に関しては、依頼や仕事の難易度によって変わってくる。


 冒険者達は成功すれば報酬が手に入るし、失敗すれば何かしらを失う。どちらにせよ全ては自己責任として扱われる。


 しかし、そうしたリスクがあったとしても得られる富や名誉、そして達成感や充実性を求めて冒険者にへと転身していく者が後を絶たなかった。


 この仕組みが世の中に浸透していき、今では冒険者達の存在は世間に受け入れられているのである。


 ならず者達による被害は大きく減り、逆に冒険者達に魔物や害獣を退治する様になって治安の面は改善されたのだ。


 国や自治体にとっても、冒険者にとっても利のある対策。……しかし、冒険者ギルドというのはただの慈善事業というものでは無い。この組合には別の意味合いもあった。


 冒険者ギルドがある本当の意味合いとしては、武装した輩を一纏めに管理する事が最大の目的である。でなければ、そういった者達を野放しには出来ない。国によっては冒険者達を戦力の一つと考え、戦争に利用するという例もある。


 こういった風に一概に自由な生業とは言えないのが、この冒険者という職業である。そしてそれに属する一員であるウィリアムは、自分の依頼達成の報告とイヴの案内という目的でこの施設に訪れていた。




******




「お疲れ様です、ウィリアムさん。依頼の方はいかがでしたか?」


「あぁ、特に問題も無く終わった。これが依頼達成の報告書だ」


 ギルドの受付に現れたウィリアムに笑顔を向け、そう声を掛けたのは冒険者ギルドの女性職員。


 様々な業務を担当する受付嬢の1人、名をアイリスといった。出身はこの近辺では無く、都市部から派遣されてきた人間である。


 年齢はウィリアムよりも少し下。少しウェーブの入った亜麻色の短い髪形をした可憐な女性である。


 他の受付嬢が対応する事もあるが、ウィリアムがギルドを訪れる時は大抵はアイリスが対応する事が多い。


「警護中は魔物も獣の1匹も出なかったな。順調すぎて後が怖いくらいだったよ」


 今回のウィリアムが受けていた依頼は、エイスから他の街までの物品輸送に対する護衛である。


 こういった依頼は時として野盗に襲われる事もあるが、今回は何事も無く終わっている。


「そうですか。でも、無事だったのであれば良かったです。それでは、報酬の方をお持ちしますね」


 アイリスはそう言ってから受付の奥の方にへと向かっていった。そして少しして、報酬の入った小袋を盆の上に載せ、またウィリアムの前に戻ってきた。


「はい、それではこちらが今回の報酬になります。いつもお疲れ様です」


「あぁ、ありがとう」


 ウィリアムは小袋を受け取ると、それを腰にぶら下げた雑嚢の中に収めた。


「それで……他にご用件はありますか? 一応、依頼でしたら何件かきてますけど……時間が時間ですので、あまり数は残っていませんが―――」


「いや、今日はもう依頼の方はいい。それよりも頼みたい事があって……だな」


「頼みたい事……ですか。 どういった内容でしょうか?」


「それはだな……」


 そう切り出してからウィリアムは後ろを振り向いた。その直ぐ後ろにはイヴが杖を両手で持ち、じっと待っていた。


「彼女を冒険者として登録してやって欲しいんだ」


 ウィリアムがアイリスに向けてそう言うと、イヴはそれを合図に前に出て―――


「こんにちはっ! 初めましてっ!!」


 最初にウィリアムと会った時と同じ様に快活な笑みを浮かべ、アイリスに対してそう挨拶をしたのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る