第6話『冒険者』



「ところで、ウィリアムさん。あの……少し質問があるんですが」


 ウィリアムがイヴを拠点の街にへと案内している最中の事だ。珍しそうに周辺の景色を眺めつつ歩いていたイヴは、不意にウィリアムにへとそう言ってきた。


「質問?」


「はい。街に着く前にぜひとも聞いておきたいと思いまして。それで、大丈夫でしょうか?」


「あぁ、それぐらいなら別に大丈夫だよ。遠慮なしに聞いてくれ」


「ありがとうございます。それでは、えっと……」


 イヴはどれから言うべきかを頭の中で整理をし、それからウィリアムに向けてこう聞いた。


「私、実は『冒険者』というものになりたいんですが……どうすればなれるんでしょうか?」


 イヴから質問。それはウィリアムにとってごくごく身近である、自分の職業についての事だった。


「私も調べたり、聞いてはみたのですが……冒険者というのは凶暴なドラゴンの群れを薙ぎ倒したり、卑劣な悪魔の集団とかを討滅する様な強い人達なんですよね」


「……は?」


 イヴからの説明を受け、そのあまりのぶっ飛んだ内容にウィリアムは唖然となった。


 イヴが口にしたドラゴンや悪魔といった種族は人間と同じく、個体によって大なり小なり力の差にはバラつきはある。


 しかし、それでも人間にとっては脅威的な存在だという事に変わりは無い。強さで比較すれば比べ物にならない。


 もしも新人の何も知らない冒険者が、それらの脅威と遭遇してしまったとすれば、助かる見込みは全くといって無いだろう。


 それがこの世の現実であるというのに、一体どこから情報を仕入れればそんな現実味を帯びない様な内容になるのだろうか。


 ウィリアムは心の中でそう思い、無意識にだが後頭部を乱雑な手つきで掻いた。


「という事はやっぱり、相応の実力が無いとなれない様なものなんでしょうか?」


「……いや、そんな事は無いぞ」


 ウィリアムは重いため息を吐いた後、イヴに向かってそう言った。


「ある程度の規模の街に行けば専門の施設が必ずあるんだが、そこで冒険者の申請すれば誰でもなれる職業だと思う」


「えっ、そうなんですかっ!?」


「君の言うドラゴンや悪魔なんかを相手にできるのは、冒険者の中でも一握りだけだ。全員が相手に出来る訳じゃない」


「そうだったんですね……そんな簡単になれるものだっただなんて……」


 ウィリアムの言葉を受け、イヴは驚愕とした様子であった。


「それなら……私もその施設という所に行けば、冒険者になれるんですね」


「そういう事だ。その証拠に……」


 ウィリアムはそう言うと、紐で結び首からぶら下げている金属製の板をイヴにへと見える様に掲げた。


「これが冒険者の認識票だ」


 ウィリアムがイヴに見せたのは、冒険者として登録をすると貰える個人の認識票だった。


 その金属製の板の上には身分を証明する為、ウィリアムの個人情報が簡易的にだが記されている。


「俺みたいな人間でもなれてしまう。それが冒険者という職業だよ」


「え、ウィリアムさんって冒険者だったんですか!?」


「まぁ、そうだな。良かったらこれ、見てみるか」


 ウィリアムは首に下げている認識票を外すと、それをイヴに向けて投げ渡した。


 弧を描いて認識票はイヴにへと一直線に飛んでいき、そしてそれをイヴは両手で掴み受け取った。


「あっ、ありがとうございます」


 イヴは認識票に触れつつ、それをじっくりと観察をしていく。


「……ちなみにだけど。その情報は何で調べて、誰に聞いたんだ?」


「お師匠様の手記を読んだのと、本人から直接教えて貰いました。それによるとお師匠様は昔、熱くて強い冒険者でぶいぶい言わせてたって聞きました」


「ぶいぶいって……」


「でも、お師匠様……この認識票? というものがあるなんて、教えてくれなかったけど……何ででしょう? 忘れていたんでしょうか?」


 そしてイヴにそんな疑問が生じるも、それを晴らす事はイヴにもウィリアムにも出来ない。その答えを知っているのはイヴの師匠だけである。


 ますますその師匠とやらの存在に対し、ウィリアムの頭では疑問符が浮かび上がる。謎は深まるばかりである。


 そうした会話を交えつつも、時間はどんどんと進んでいき、街までの距離も縮まっていく。2人が目的地に辿り着くまで、あと少しの所にまで迫っているのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る