第4話『少女の行先』
ウィリアムを見つめる少女の瞳はきょとんとしていた。どうして呼び止められたか分かっていない様子である。
持っていた杖を両手でぎゅっと握り締め、少し離れた位置にいた少女がウィリアムの直ぐ傍まで近寄り、正面にへと立った。
ウィリアムからは先程まで少女の後ろ姿でしか見えていなかったので、それによって少女の容姿が明らかとなる。
背丈は中肉中背のウィリアムよりも頭1つ小さいぐらい。種族はきっと人間だと思われた。
ウィリアムがそう思ったのは、亜人と言われるエルフやドワーフといった種族の身体的な特徴が少女からは見受けられなかったからだ。
それから体格にそぐわない大き目の三角帽子を被り、まだ真新しさの残るローブをその身に纏っている。
三角帽子の端からは綺麗な金色をした髪が見えており、それを頭の後ろで1本に纏めて三つ編みにして少女の右肩から垂れ下げていた。
そしてウィリアムが一番印象的だと思ったのが、少女の目である。少女の目はきらきらと、眩しいぐらいに輝きを放っていた。
まるで理想や夢を追い求める様な、希望や期待で満ち溢れた若者の瞳。きっと数年前の自分も同じ様な輝きをしていただろう瞳。
まだ世の中の事を良く分かっていない、無垢で穢れの無い目をしているとウィリアムはそう感じたのだった。
―――今の自分は多分、そんな目はしていないだろうな。
ウィリアムは心の中で静かにそう思った。その瞳の輝きを羨ましくも思うのだった。
しかし、今はそんな感傷に浸っている場合とは違った。そんな事をする為にウィリアムは少女に声を掛けた訳では無いのだから。
「あー、えーっとだな……」
ウィリアムは歯切れ悪くそう言葉を紡ぎ、少女に対してどう話を切り出すかと模索していると―――
「こんにちはっ! 初めましてっ!!」
少女は快活とした笑みを浮かべ、ウィリアムにへと向けてそう挨拶をしたのだった。
忠告をしようとして声を掛けたのにも関わらず、先にそう挨拶をされてしまいウィリアムは若干だが戸惑った。
なので少女からの挨拶に直ぐに返答する事が出来なかった。それを怪訝に思ったのか、少女は首を傾げていた。
「―――こんにちはっ! 初めましてっ!!」
そしてもう1度、少女はウィリアムに挨拶をする。今度は深々としたお辞儀も加えてみせた。
どうやら少女はウィリアムに自分の挨拶が聞こえていなかったのかもしれないと判断したのだろう。
「あ、あぁ。こんにち、は……」
流石に2度もされれば返さない訳にもいかない。今度こそウィリアムは少女からの挨拶に応えた。
「はいっ! それで、私に何か御用でしょうか?」
「いや、その……だな。実はさっき、分かれ道の手前で立ち止まっているのを見ていてだな。それで、道が分からないのかと思ってだな……」
「あ、さっきの……見られていたんですか」
「……まぁ、そういう事だな。それで君さえ良ければなんだけど……行先を教えてくれれば、案内をする事も出来るが」
「えっ、本当ですか?」
少女からの問い掛けにウィリアムは頷いて答える。
「それはどうも、ご親切にありがとうございます。どっちに行けば良いのか分からなかったので、助かります」
少女にとって、そのウィリアムからの申し出は渡りに船だった。喜ばしいとばかりに、また深々と頭を下げた。
「それで、君はどこに行きたかったんだ?」
「私、『街』に行きたいんです」
それを聞き、ウィリアムは声を掛けて良かったと思った。少女の目的地が街であるのなら、そのまま進んでいたら大変な事になっていただろう。
街を目指していたのに、魔物や獣の生息区域にへと辿り着いてしまったのなら目も当てられない。
しかし、少女のその言葉だけでは詳しくは案内出来ない。少女の言う街がどの街を指しているかがまだ分からないのだから。なので、ウィリアムは少女にへと更に質問を重ねる事にした。
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