第3話『杖占い』



「こっちもあっちも反応は沢山あるし、迷っちゃうなぁ……こんな事なら、お師匠様に詳しい場所を聞いておけば良かったのかな。でも、お師匠様がそう簡単に教えてくれるとも思えないし……」


 そう言いつつ、少女は顎に手を添えて悩んでいる。


「けど、こんな事をしていたら日が暮れそうだし……どうしよう」


 更にそう重ね、ウィリアムの前で少女はうんうんと悩み続ける。


 そして声を掛けようとしていたウィリアムだったが、今はその動きを止めていた。


 先に話し掛けるつもりであったのだが、少女の方が先に口を開いてしまったせいでどうにも話し掛け辛い。


 もっと早くに話し掛けていれば良かったのだが、今は完全に時期を逃している。そんな感じであった。


 そんなウィリアムの葛藤を他所に、少女は思案を巡らせていく。


「こうなったら……奥の手を使うしかないですね」


 ―――奥の手?


 少女の言う奥の手とは何なのか。それをウィリアムが考える前に少女が早々と行動に出る。


 右手に持っていた杖を少女は空にへと掲げると、それを「えいっ!」という掛け声と共に地面にへと目掛けて突き刺したのだ。


 目一杯の力が込められた事によって、少女の杖が地に深く埋まった―――りはしない。せいぜいその先端が少しだけ地面に刺さった程度であった。


 それらの行動をずっと眺めていたウィリアムだったが、少女が何をしようとしているのかは全くといって呑み込めない。


 ―――一体、何をするつもりなんだ。


 ウィリアムは固唾を呑んで少女の動向を見守る。その後ろからの視線に未だに気づきもしない少女は―――唐突に右手を杖から放したのだった。


 少女の手という支えを失った杖は自然の法則に従って、少女の前方にへと向かって傾き、倒れていった。


 杖はその頭が地面にへと触れた後に何度か跳ね、倒れた衝撃でカランカランと音を立てる。


 それから杖は少しだけ横にへと転がったところで完全に止まったのだった。


「えーっと、杖の向きは……」


 止まった事を確認した少女は杖の頭が向いている方向にへと視線を移す。


 杖は真っ直ぐではないものの、左への道の方向に倒れ、そちらを指し示している。


 それが分かると少女は杖を広い、着いてしまった汚れをさっと手で払う。その後でこう言ったのだった。


「それじゃあ、こっちに行きましょう!」


 そうと決まった途端に少女は意気揚々と左の道に向けて歩き出した。


 そしてそのまま真っ直ぐと―――


「いやいや、ちょっと待ったっ!!」


 真っ直ぐ進んでいこうとしていた少女の足取りをウィリアムはそう言って引き留めた。


 引き留められた少女はというと、少し反応に遅れはしていたが歩く足を止め、不思議そうな表情をしながら声のした方にへと顔を向けた。


 ちなみに少女は自分が声を掛けられたとは思ってはいない。いきなり後ろから声がしたから何なのだろうと振り向いただけである。


 振り向いた少女は辺りを見回してみるが、声を発したウィリアム以外にはこの場には誰もいない。少女とウィリアム、2人きりだった。


「……もしかして、私の事ですか?」


 少女は自分の事を指差しながら、確認する様にしてそう言った。それからウィリアムのいる方向にへと歩き出し、ゆっくりと近寄っていったのだった。



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