第二話 4月2日

昨日の土砂降りが嘘のような良い天気だが、風が強い。暖冬の影響で開花が早かった桜が花柄ごと吹き飛ばされて吹き溜まっている。足元が覚束なくなるような強風の中、食材の買い出しにショッピングモールに向かう道すがら、顔見知りの犬に出会った。犬は風に揉みくちゃにされて、毛玉のようになっている。


「すごい風ですね。」

「ええ、まいりますね、これは。」


 立ち止まって話すのが苦しいくらいの風だ。お互いに会釈をしてそそくさとすれ違った。


 ショッピングモールは空いていた。野菜は特別安くないが、肉や魚は安い気がした。おおよそ5日分程度の食材を買って、帰りに生花コーナーを覗いたら、派手な花と目が合った。左右から内側にクルンと巻きかけたような細長い花びらが幾重にも重なった赤い花。一輪づつフィルムに包まれている。ラベルを見ると「ダリア」と書いてあった。


 今日の花は、昨日の花が暖色だったから寒色系にしようと思っていたけれど、目が合ってしまっては仕方がない。1本税別298円。名前も知らなかった花だから、高いのか安いのかはよく分からない。




 赤いダリアは茎を長めに残して、黒い花瓶に挿した。昨日のカーネーションとかすみ草の花瓶の横に今日の黒い花瓶を置くと、ダリアは少し会釈する様に揺れた。

 



ダリアの花言葉:華麗

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七色の花瓶が花で満ちても @bbcat3

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