七色の花瓶が花で満ちても

@bbcat3

第一話 4月1日

 形見分け、というほど大袈裟なものではなかったが、電車で持ち帰るには十分重たかったから宅急便で送ったそれは、4月最初の日に届いた。

 4月1日は即ち、多くの人にとって年度始めである。

 現在無職状態である私にはあまり関係のないことであるが、何かを始めるには丁度良い日であるような気がする。

 段ボールの中、くしゃくしゃにした新聞紙の中から掘り出すようにして、白っぽいカウンターの上に並べた7本7色の細長い花瓶。


 これから毎日1瓶づつ、花で満たそう。

 彼女がかつて、そうしていたように。



 早速今日から、という気持ちを流してしまおうとしているかのような土砂降りの中、近所のホームセンターで買い求めたのは、オレンジ色の大きなカーネーションと黄色の小ぶりなカーネーションと少しのかすみ草が纏められたブーケ、税別398円。

 最初はオーソドックスな花がいい気がしたし、少なくとも7日間は毎日花を買い続けようと思っているのだから、あまり高いものにはしたくなかった。

 なにより、明るい色味のものにしたかった。オレンジや黄色の花弁がひらひらと幾層も重なっている様子が、最初の1瓶に相応わしいと思った。


 それにしても思っていたより安くきれいな花が買えた。新型ウイルスの影響でイベントが悉く中止になったことで花卉が余っていると報道されていたが、未だ影響があるのかもしれない。

 

 どの色の花瓶に挿そうか、ちょっと迷って、オレンジと黄色が映えそうな薄紫にした。大きなオレンジのひらひらがこっちを向くように一番低く切って、黄色のひらひらと白の点々はバランス良さそうな長さにして花瓶に挿した。あまりセンスは良くないが、生け花の知識もないし仕方がない。7つ並んだ空の花瓶の一つに花が挿さると、少しだけ部屋が明るくなったような気がした。


 明日も花を買いに行こう。




カーネーション(オレンジ色)の花言葉:純粋な愛

カーネーション(黄色)の花言葉:軽蔑

かすみ草の花言葉:永遠の愛

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