July サンダルでダッシュ!
セミの鳴き声。生暖かい風。地面を蹴る音。腕時計の秒針は容赦なく進んでいく。
予定時刻まであと1分。
テストも終わり,あとは夏休みを待つだけなこの頃。なぁ。と声をかけられて告げられたのは夏らしいお誘いだった。煩わしいものから解放されたクラスメイトたちは,“夏らしく遊ぶ”という目的のもと一駅向こうにあるプールにいく計画を立てていたらしい。誰が来るのかを聞いてみたところクラスのほとんどが参加すると聞いた僕は参加することにしたのだ。
ちなみに,幼なじみでありクラスメイトの
そんなこんなでついに当日になってしまった僕は今ものすごく焦っている。
バスの時刻表に合わせ,バス停でもあるいつもの公園でこの時間にと凪胡と約束した時間の10分前に目覚めてしまったのだ。起きがけの頭では認識できなかった事実が目に入ったとき,“
家から公園までは歩いて5分ほど。走ればギリギリ間に合うかもしれないというほんの少しの希望を抱いて前を見る。じりじりと照りつける太陽が帽子を忘れてきた僕を責めるようにさし続ける。まだ家を出て時間がたっていないのに噴き出す汗が気持ち悪い。
次の曲がり角を曲がれば目の前は公園というところで嫌な音が聞こえた。エンジン音が聞こえている。その角を曲がり切ったとき目の前にあったのは去っていくバスの姿だった。そこに人の影はない。きっと先に乗っていってしまったのだろう。完全に置いていかれた。次のバスまでは20分ほどあるが,次のバス停まではそこまでの距離はない。なんなら近道をすればこちらが速く着くだろう。
バスが行ってしまってから1分ほど,また全速力で走り出す。いつもはほとんど使わない裏道を曲がり横断歩道のない道を駆け抜けて行った。いつもならうるさくて仕方のないセミの声も肌に張り付く薄いTシャツも気にならない。ただひたすらに前へと走った。
どれくらいの距離を時間をかけたのかはわからない。やっと目当ての通りに出ることができた。少し遠くの方からバスが走ってくるのが見える。間に合った。ほんの少しスピードを落としてバス停に立つ。目の前に止まったバスは確かに公園前で逃したものだった。
開いた扉からすぅーっと流れ出た冷気が,夏の暑さと走ったことにより熱を持った体を冷やしてくれる。乗り込み車内を見回すと,後ろの座席で今一番謝らなければならない人物がじっとこちらを見ていた。そちらのほうへ向かっていくと,2人がけの椅子の片方を開けて,「間に合ったんや。よかったな。」と,滅多に見せない笑みを浮かべた。
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