十五メートル先に見えたもの
南国アイス
だったら、気がついたよな?
高校からの帰り道、いつものように友人たちとくそみそな話でふざけあいながら立ち寄ったコンビニ。一人はカップラーメンを啜り、一人は缶コーヒーを飲みながら、タバコをふかし、みなで外の駐車スペースに座り込んで駄弁っていた。
その時、僕は見てしまった。
何が見えたのか、自分でも一瞬混乱したが、周りにいた友人たちに直ぐに伝えても一緒にいた友人たちは誰一人として僕が見たものを見ていなかったし信じなかった。僕が必死に説明しても悪い冗談にしか受け取ってもらえなかった。
あの日以来、なんだか全てのことが嘘なんだと感じてしまう。授業を受けていても、友人たちと駄弁っていても、お昼に焼きそばパンを食べていても、常に感じている。
世界の全ては脳内で再生されているだけなんだって。
だって、僕だってあんなものが見えてしまった事が今でも信じられないのだ。自分の目を疑うとはこのことだと思った。
誰にも信じてもらえないのも辛かった。数人の友人たちと一緒にいたのに、なぜ僕にしか見えなかったのだろう? 僕がオカシクなってしまったのだろうか。ちょっと怖くなってきた。
コンビニのすぐ横は図書館だった。大きくはないけど、レンガ造りの割と立派な図書館で地下に駐車場があった。
僕と友人たちはよくその地下駐車場でスケボーをしていた。夜になると図書館は誰もいなくなるので、例のコンビニで飲み物や軽食を買って、図書館の地下駐車場に潜り込んで、スケボーしながら仲間と過ごすことが多かった。
数日経ったある日、図書館の地下駐車場でいつものようにスケボーしながら駄弁っていた時、僕は改めて、友人たちに聞いてみた。
あの時僕が見てしまったものについて。
僕は、もうあの時の自分がオカシカッタことにしたかった。なんなら、あれほどハッキリ見えたあれを、なかったことにしたかったのだ。
「その話、もう止めてくれよ」
友人の一人が言った。
今回は冗談にもならなかったようだ。
僕はごめんごめんと言ってそれ以上この話を続けることはしなかった。
帰り際、帰り道が同じ友人と自転車でゆっくりと走っていると、その友人がボソッとつぶやいた。
「おれは見えなかったことにしたいんだよ」
「え?」
「だからもうあの話はしないで欲しいんだ」
「てことは、ほんとは……」
「だから見えなかったことにしたいんだってば」
僕がオカシカッタ訳ではないことが証明された。
コンビニの通りを挟んだ向かい側の街路樹の横に真っ黒なスーツを着た男が一人ポツンと突っ立ていたことを。不思議な事に、車が一台通り過ぎた瞬間、その男は消えていた。
「……」
しばらく沈黙が続き、自転車のペダルを漕ぐ音だけが静かに繰り返される。しかし、僕はどうしても確認したいことがあった。
「だったら、気がついたよな?」
「あぁ……」
僕らは同じタイミングで口を開いた。
「首がなかった」
なんだ、よかったよかった。
僕は一人だけオカシクなってしまったかと思ってずっと不安だったんだ。
これで安心して眠れる。
十五メートル先に見えたもの 南国アイス @icechan
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