...Continue?(第10話の続きから始まります)
第12話(Continue)GOOD END LOVE
もちろんアタシの彼氏であり、ストーカーである
アタシと司くんが話していると必ず「何の話してるの? 俺も混ぜてよ」と話に割り込んでくる。
司くんは司くんで、アタシに話しかける頻度が高すぎて、アタシとしてはアタシにつきまとうストーカーがもうひとり増えた気分だった。
しかも二人とも顔だけで言うならイケメンの類である。他のクラスメイトの女子の目も気になるし、まぶしく後ろめたい気持ちである。
司くんはその容姿と物腰柔らかな言動から、他の女子からの人気も高いようだった。他のクラスからも女子が様子を見に来るくらいだ。
そして、彼はアタシに接触して『同盟』に入るかどうか確認したいようだったが、アタシに常につきまとう水上のせいでなかなかアタシに接近できないようだった。
連絡手段はあの手紙。
ある日、手紙でまた図書室に呼び出されると、司くんは「それで、『同盟』に入る気になったかな?」と単刀直入に訊ねてきた。
おそらくは、また妨害電波アプリを使って、水上がアタシのどこかに仕掛けた盗聴器や発信機を無効化しているのだろう。……それにしても、そんな怪しいアプリあるのか。
「うーん、悪いけどアタシはやめとくよ」
「何故だい? 君もストーカー被害にはほとほと困っているんだろう?」
「それはそうなんだけど、やっぱり水上はなんだかんだ言って好きだし、裏切れないしさ……」
その言葉を聞いて、司くんは眉間にシワを寄せる。
「君は水上に洗脳されているんだよ。ストーカーが好きなんて、ありえない」
「……実はさ、アタシの父親もストーカー気質なんだよね」
アタシは小さい頃から感じていたこの世界の違和感について語る。
それを司くんはじっと聞いていた。
「――まあ、そんな困った父親なんだけど、捕まったら困るしさ。悪いけど、『同盟』での活動はそっちで勝手にやって」
「……残念だな。僕は君のこと、わりと好きだったから『同盟』に入ってほしかったんだけど」
「え?」
椅子を引いて静かに立ち上がり、司くんはアタシを優しく抱きしめる。
「好きなんだ。君が」
王子様みたいなキラキラした雰囲気を身にまとったイケメンにそんなことをされて、ときめかない女はいない。
「……離して、司くん」
それでもアタシは抵抗する。
「僕のこと、嫌い?」
「そういう問題じゃなくて、アタシには彼氏がいるし、浮気するつもりもないから」
「なら水上と別れればいい」
「……あのさ、相手を強引に自分の都合のいいように動かそうとするの、それストーカーと何も変わらないよ」
アタシがそういうと、司くんの身体がピクリと動いた。
「――この僕を、ストーカーと同列にしないでほしいな」
「なら、離して」
「そうだぞ、楓が嫌がることをするのは良くない」
「!?」
突如水上の声がして、司くんは動揺した様子を見せる。
「な、何故お前が……妨害電波を流したはずなのに……!?」
「地道に学校中探し回ったに決まってんだろ、ストーカーの執念ナメんなよ」
水上は肩で息をしている。きっとアタシを探すために学校中を走り回ったに違いなかった。
「ほら、さっさと離れろ」
水上はアタシの背中に回った司くんの腕を剥がして、突き離すように身体を手で押して離す。
「じゃ、司くん。そういうことだから。ごめんね」
アタシは司くんに背を向けて、水上を伴って図書室を出ていく。
司くんがどんな表情を浮かべていたのかは分からないけれど、このまま諦めてくれるだろうか?
「ところで水上、思ってたより早くアタシを見つけたね?」
「実は秋野にも探すの手伝ってもらったんだ。楓を見つけたから連絡しておかないと」
そう言って秋野に電話をかけ始める水上の横顔を、アタシは見つめる。
……こいつ、ストーカーだけど、なんだかんだアタシのこと心配してくれるんだよなあ……。
アタシとしてはストーキングされるのはごめんだが、うっかり
「……そうやって見つめられると照れるんだけど」
どうやらアタシの視線に気づいていたらしく、水上は電話を耳に当てながらこちらに目線だけ向ける。
浅黒い肌だから分かりづらいが、おそらくは少し顔が赤くなっているようだ。
「いや~、ストーカーでさえなければいい男なのになあ、と思ってね」
アタシは素直に思ったことを口にする。
ボボッと水上の顔が更に赤くなったような気がする。
「……俺がストーキングするの、やっぱ嫌だよね、ごめん」
「自分の意志でやめられないの?」
「いつでも楓を見守ってないと不安というか心配というか……うーん、やめられそうにないな」
水上は苦笑する。何故か悲しそうに見えた。
「――水上、動かないでね」
「え?」
アタシは水上に身体を密着させ、肩に腕を回す。水上は突然の接触にビクリと身体を跳ねさせる。
「え、か、楓、なに、」
「いいから、動くな」
アタシは自分のスマホを、なるったけ腕を伸ばして二人が画面に入るように調整する。
パシャリ、とシャッター音が廊下に響いた。
「……これでよし。あとでアンタにも送ってやるから大事にしなさい。あとアンタの部屋の写真全部捨てなさい。あんな
「楓……?」
アタシの突然の行動に、水上は目をパチクリさせる。
「アタシ、決めたの。司くんが政治に干渉して法律を変えさせる前にアンタとパパのストーキングをやめさせる。法律って、施行される前の犯罪は追及されないんでしょ? その前にアンタとパパを改心させて、逮捕なんか絶対させない」
アタシはビシッと人差し指を水上に突きつける。
「アンタがアタシを心配してストーキングがやめられないなら、どうすればやめられるか二人でじっくり話し合って考えましょう。だって、アタシたち恋人でしょ?」
「楓……」
『松崎さんと錦は本当に仲がいいね』
『ホント、お似合いのカップルだわ』
突如、水上のスマホから男女の声が聞こえた。
「は!? 電話切ってなかったの!? やだ、恥ずかしい!」
「ご、ごめん……電話切る前に楓が突然、その……」
水上は申し訳無さそうな顔で謝る。
『楓、天童くんが政治に干渉して……ってやつ、どういうこと?』
スマホから紅葉の声がする。
「実は……」
アタシはこれまでの経緯を説明する。
『うーん、それなら大丈夫じゃないかな。天童くん、国家転覆罪で逮捕されそうな気がする』
「そんな重い罪なの……?」
昔に法律を制定したその悪徳政治家とやらは、どんだけのストーカーだったのだろう……。
『でもまあ、ストーキングをやめられるならそれが一番いいと思うよ。僕は紅葉と結婚してもきっとやめられないだろうけど』
『ふふ、夕陽ってときどき情熱的よね』
また秋野と紅葉の惚気が始まったので、水上に電話を切らせた。
「まず水上の意思を聞きたいんだけど、ストーキングやめたい?」
「自分の意志では止められないけど、楓がやめてほしいならやめたい」
「よし。じゃあ、二人で相談してどうしたらやめられるか一緒に考えよ」
アタシは歯を見せてニッカリと笑う。
「アタシは水上の顔が好きだし、水上のストーキング癖がなくなればもっと好き!」
どストレートに気持ちを伝えると、水上は浅黒い肌でもわかるくらい、顔を真赤にした。
「じゃ、じゃあ……頑張る、から」
「うん、じゃあそろそろ暗くなるから家まで送って」
「う、うん」
そうして、アタシは水上と手を繋いで家路をたどる。
――思えば、今まで水上のことはストーカーと言うだけで忌み嫌っていたふしはある。
こうして真剣に向き合ってみれば、彼は恥ずかしがり屋で誠実な男であった。
アタシたちの交際は、ここからやっとスタートラインに立ったのだ、という感じがした。
【GOOD END】
ストーカーボーイズ~同級生の男子二人がストーカー友達でした~ 永久保セツナ @0922
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