ゴムとびの唄
紫 李鳥
ゴムとびの唄
輪ゴムをつなげて作った長いゴムで、いつも友だちとゴムとびをして遊んでいた。
だけど、父さんの仕事で転校することになって、もうみんなと遊べない。
「元気でね」
みんながそう言って、鉛筆やノートをくれた。
「……ありがとう」
私は、仲良くしてくれたみんなとの別れが悲しかった。
汽車に乗って着いたのは、海が見える小さな町。
私は越してきたばかりで友だちもいない。
だから、空き地にある木の幹に結んで、一人でゴムとびをした。
♪
エッサ エッサ エッサホイ サッサ
お猿のかごやだ ホイサッサ
ヤットコ ドッコイ ホイサッサ
ホーイ ホイホイ ホイサッサ
父さんと私は、表札に山田とある女の家に住んでいた。
山田は三十過ぎだろうか、
そんなある日、父さんが自転車で転んで、入院することになった。
「ったく。あんたの父ちゃんは酒飲みで、遊び人。その上、入院までしちまって、収入もないし。あんたたちが来てから、ろくなことがない。
山田はまずそうに夕飯を食べながら、味噌汁をすする私を
その目は底意地の悪さを教えていた。
父さんは好きで自転車で転んだわけじゃない。仕事に急いでたからじゃないか。
私は腹の中で、そう反論した。
父さんの前ではおべんちゃらを言って、入院した
翌朝、山田は、
「キュウリを採ってくる」
と言って、畑に行ったまま帰ってこなかった。
私は父さんから教わっていた料理を作って食べた。
学校の帰りに父さんが入院している病院に寄った。
「山田のおばちゃんがいない」
「いないって、いつからだ」
片足にギプスをした父さんが目を丸くした。
「きょう。朝、畑から帰ってこなかった」
「……どこに行ったんだろう」
父さんは考える顔で、開いてる窓から空を見た。
夏休みになっても山田の行方は分からなかった。
退院した父さんは、山田の家の近くに間借りをすると、また働き始めた。
その家には、私より一つ下の小学五年生がいたので、一緒にゴムとびをして遊んだ。
♪
緑の丘の赤い屋根
とんがり帽子の時計台
鐘が鳴ります キンコンカン
メイメイ
風がそよそよ 丘の家
黄色いお窓はおいらの家よ
畑の
「用を足してて足を踏み外したんだろうか?」
「だな。小柄で痩せてたから、運悪く落ちたんだろう」
それが、近所から聞こえた会話だった。
誰一人、私を疑う者はいなかった。――
ゴムとびの唄 紫 李鳥 @shiritori
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