私自身だけの力でやってこれたとか、そんな思い上がりは無理

母親に対して素直になれない主人公を、軍の仲間達はちょっと気まずそうに見守るんだ。なにしろ、自分達も あんまり大差ない境遇だからね。


主人公も、


『これで後腐れなく両親と和解できて円満解決』


とはいかず、わだかまりは残っちゃうんだけど、それでももう、


『世界に復讐する』


ってのはなしってことにするんだよね。その必要もなくなったし、それを実行しようとしてたらどんなことになったか、具体例も見られたし。


その一方で、主人公はすっかり<ソシオパス気質>になっちゃって犠牲者や遺族の気持ちにはいまいち共感できなくなってて、だけど、軍に所属して軍人として、


『命令に従い市民を守るために務めを果たす』


ことはできて、職責を全うする人生を送るんだ。


数十年後には、また別の武装強盗団との戦いで致命傷を負うものの、彼に憧れて軍に入った息子と妻に看取られて、穏やかな表情で、今度こそ安らかに命を終える。


「終わり良ければ総て良し……てのは、こういうことを言うんだな……」


と呟きながらさ。




主人公がギリギリのところででも踏みとどまれたのは、結局、今の両親が諦めずに彼に大切な<手本>を示してきてくれたことと、軍を目指してからの<出逢い>だった。


<武装強盗団>の連中が得られなかったものを主人公は持ってたことが救いになった。


何だかんだ言ったって、本人の努力とかだけじゃなく、そういう<環境>の影響ってのは大きいと思うんだよ。


私自身、その実感がある。


てか、その実感しかない。


今の私になれたのは、半分以上、出逢いを含めた環境のおかげ。


私自身の努力だけじゃ、無理だった。その事実は間違いなくある。


私自身だけの力でやってこれたとか、そんな思い上がりは無理。


だからこそ、


『自分で何とかしろ!』


なんて、私は自分の子供達には言えない。本人のやりたいことについてはまあ自分で何とかしてもらうしかないけど、相談に乗るとか協力くらいはしたいじゃん?


何しろ私がこの世界に送り出したんだからさ。


その上で、今回の主人公は最後は確かに満足な人生を得られたけどさ、やっぱ、そんな大変な回り道をせずに済むならその方がいいじゃん? 


だから私は、自分にできることをしたいんだよ。


でないと、私自身が、後悔ばっかりの中で自分の人生を終えることになる予感しかない。好き勝手に生きたら、私の人生はそれこそロクでもないものになるのは目に見えてる。


それじゃ、本当に何のために生まれてきたか分かんないよ。


生まれた時に自分に与えられた手札によってできることが大きく変わるのは事実でも、自分にもできることはある。


それもまた、確かに事実なんだ。


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