だって、あんたを生んだのは他の誰でもない私だからね。わざわざ自分で不幸になろうとしてるのを、見ないフリなんてできないよ

普通なら、ここで、自分と同じ境遇にありながら自分のように救われるきっかけがなかった<武装強盗団>に対して同情とかして躊躇ったりする展開だったりするのかもしれないけど、残念ながら主人公は、<ソシオパス>って言われるものになっちゃってた上に妙な<悟り>も得ちゃってて、淡々と<作業>をこなすんだ。


淡々と、ただ淡々と。


でも、そんな主人公がギョッとなる瞬間があった。


武装強盗団の一人が剣を振り下ろそうとしていた相手を見て。


『母さん……っ!? なんで……!?』


そう。主人公が他人様を傷付けようとかしたら体を張って止めようと覚悟を決めて陰から見守っていた母親のことを、彼はまったく気付いてなかったんだよね。


そして動揺したことでピンチに陥るんだけど、それは、軍に入ってからできた<仲間>がフォローしてくれるんだ。


何だかんだで、『危ないとなったら助けたい』と思ってもらえるようになってたから。


こういうところも、武装強盗団とは違ってた。武装強盗団の連中は、集団なのに仲間意識がなくて、仲間がピンチでも助けようとはしなかったんだ。


まあ、当然か。


<死にたがりの集団>


なんだから、助けられるなんてそれこそ<余計なお世話>だろうし。


で、


『ちっ! これじゃ大して道連れにできねえ……!』


ってことで、三分の一ほどがやられたところで、武装強盗団は撤退し始めた。


<死にたがり>のクセに、


『道連れも作らずに死ぬのは嫌だ』


っていうどうしようもない連中だったから。


しかも逃げ足は超一流で、多くがまんまと逃げおおせた。


できればここで<殲滅>したいところだったけど、軍にとっては、


<『自国を守れればそれでいい』っていう合理的判断>


で、深追いはしないんだよね。


なにしろ、その武装強盗団がこの国に現れたのだって、他の国に現れた時に、やっぱり同じ理由で徹底的に追ってまで殲滅しようとしなかったからだし。


それだけじゃなく、連中が現れて容赦ない殺戮を繰り広げた光景を見て、


『これこそが自分の生き方だ!』


みたいなことを感じて合流するのが、行く先々で現れるから、減った分だけまた勝手に増えていくという……


主人公も、今の両親の下に生まれてなかったら、そうしてたかもしれない。


だけど、


「なんであんたがここにいんだよ……」


賊の剣の切っ先が顔に当たって頬に怪我はしたけど命に別状のなかった母親に、主人公は仏頂面でそう声を掛けるんだ。


『散々、迷惑を掛け倒した挙句に勝手に家を飛び出す』


なんてことをしたもんだから、いまさら合わせる顔がなくって。


でも、そんな息子に母親は言うんだ。


「だって、あんたを生んだのは他の誰でもない私だからね。わざわざ自分で不幸になろうとしてるのを、見ないフリなんてできないよ」


ってさ。


「うるせぇ……母親面すんじゃねえよ……」


主人公はそんな風に毒吐きながらも、涙をぐっと堪えるんだ。


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