鍾乳洞にて古き神に会う
牛☆大権現
鍾乳洞にて古き神に会う
人は、理由を知りたがる生き物だ。
あらゆる現象に名を付けて、未知を既知としたがる生命だ。
中でも巨大な脅威を、神や妖と呼称した。
科学も宗教も、理由を解き明かすという目的は共通している。
そして科学は、多くを解き明かしながら、全てを解き明かしてはいない。
ならば、未だ科学で解き明かせぬ領域をこそ、神と呼ぶべきなのだろう。
__結子の講義ノートより
私こと新井 結子は、上のような話を、文化人類学の教授から聞いた事があった。
宗教という文化に興味はあった、けれどそれを本気で信じていた訳ではない。
今回の事だって、この地域で信じられてきた文化を調べようという、フィールドワークの一環でしか無かったのに。
蛇神が封じられているという鍾乳洞、私は案内役に地域の人を雇い、内部に入った。
一本道になっていて、危険性はない筈だった。
鍾乳洞の入り口と出口の中間で、寺の鐘のような音を聞いた瞬間に、案内役の人が消えた。
慌てて元来た道を引き換えそうと振り向くと、
そこには壁があるだけ。
最初は、天井の崩落を疑った。
けれど、それにしては細かい破片が一つも無かった。
明らかに、異常な事態だ。
ゴォー、ゴォーと風の音が聞こえる。
まるで、大きな生き物の呼吸音のようだ。
嫌な予感がしたが、密閉空間で風を感じるなら、その方向に出口がある可能性が高いと聞く。
現状、それにすがるしか無い為、歩いて行く。
ヒタヒタ、と自分の足音が反響する。
暗闇にいるせいか、自分の物だけでは無いように聞こえる。
恐る恐る振り向いても、誰もいない。
おかしい。
風が生温い。
今の季節はまだ肌寒いから、着込んできたのに。
竦む足を、叩いて歩く。
「あ、あ……」
風の元にたどり着いた私は、腰が抜けて、粗相をしてしまった。
ここに来るまでに危惧していたのは、通れない程穴が小さいこと。
或いは、登れない高さにあること。
でもそれならば、まだ良かった。
ダメ元で別の道を探しただけだ。
今目の前には、蛇がいる。
ただの蛇ではない、鍾乳洞を占領するかのような、5Mはある巨大な蛇だ。
そのアギトが、大きく開いて私に迫る……
鐘の音が響いた。
蛇は、その音を怖れるかのように身体を震わせる。
そして、私に背を向けて退散していった。
「お嬢さん、しっかり! 」
蛇が去っていった後、いつの間にか私は外に出ていたらしく、案内役の地域の人と、彼が連れてきたらしい地元の祈祷師の人と合流出来た。
「やはり、おぶへび様に拐われてたんだのう」
鍾乳洞で封じられている蛇神の名前で、尾生蛇と書くそうだ。
かつて、弘法大師が錫杖で叩きのめしてから 、仏道に関わる物品を怖れるようになり、人が行方不明になる度に鐘を鳴らしてきたらしい。
耳の無い蛇が音を怖がるなど、不思議に思うが、超常的な物に常識の尺度を持ち込む方が間違っているのかもしれない。
これが、私の超常現象とのファーストコンタクトだった。
鍾乳洞にて古き神に会う 牛☆大権現 @gyustar1997
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