3-5 塾講師は親友じゃない 結
面談から二日経ち、勤務を終えた夜。
塾舎の近くにある公園のベンチに俺は腰掛けていた。疲れていても硬質なベンチの感触はそのままで、疲れが癒えている感覚は少しもない。
神奈川塾相模原校の周囲は、マンションや一戸建ての建ち並ぶ住宅街。息を潜めたように静かな空間に、今はボールの弾む音だけが響き渡っている。
「ほどほどに切り上げて早めに帰るように。家の人が心配するから」
「分かってますよ先生」
バスケ部三坊主は、稀に塾の後で自主練に励んでいる。授業後は速やかに帰宅するよう伝えてはいるものの、その甲斐はあまり見受けられない。今日も朧月の下、密かに練習が行われていた。
彼らを追い返してから帰るという建前のもと、室長や箕輪先生には先に家路についてもらっている。
そう、これはあくまで仕事の延長線上。銀次や佐内教諭のような公私混同な真似では決してないと、言い訳じみた自己暗示を心の内で繰り返す。とはいえ、塾外で生徒と集っているのを目撃されるのは大変よろしくない。
一応予防線を張っておこう。
「というわけで、俺と君たちは偶然、あくまで偶然ここで鉢合わせたってことにしといてほしいんだ」
「はぁ、それはいいっすけど……」
ベンチの端に座り、生返事で答えたエースの目は練習に精を出すチームメイト二人に釘付けである。
「指、まだ痛むのか?」
「そうっすね。でも、もう少しの辛抱っす」
「そうか」
まだそんなに日数経ってないだろ、と突っ込む気にはなれなかった。
前かがみの姿勢で食い入るように他二人を見つめるエースの左指には、まだ白い包帯が巻かれている。自由な右手は、爪が食い込むほど力強く握られていた。
エースが再びコートに立てるようになるまで、あと三週間弱。その時間は短いようで、彼にとっては途方もなく長い。引退試合の時も刻一刻と迫っている。
そして、彼らに訪れるもう一つのタイムリミットも、また――。
「指に関しては一刻も早く治ることを願っているよ。でも、要らぬ辛抱までも背負い続けることはないんじゃないか?」
一陣の風。その中に小さく息を飲む音が聞こえた。
「……どういうことっすか?」
「日曜の夜に塾に侵入したのは君だよね、久慈英輔君」
再び沈黙が流れる。若干の肌寒さを感じて、少し歩こうかと俺は提案した。
公園内の街灯をゴールに見立てて競り合うバスケ部の二人。エースはその方向をちらりと一瞥したのち、ベンチから立ち上がった。
体を動かしても、公園内に吹く風はまだ冷たい。なるべく手短に終わらせるべく口火を切ろうとした矢先、エースが先に口を開いた。
「どうしてそう思ったんすか?」
「状況から鑑みると、君である可能性が一番高いんだ」
首を傾げるエースに、俺は順を追って説明する。
「今回の犯人の行動はこうだ。日曜の夜、校舎の窓や扉を破壊することなく室内に侵入。そして何も奪うことなくそこから脱出。不可解な行動の動機は一旦置いておくとして、これらの行動は普通なら一切証拠が残らないはずだ」
実際、ガラス窓を破壊すれば校舎には楽に侵入できる。そのうえ室内の引き出しには、友達紹介キャンペーンで配布する図書カードの存在もある(月謝は口座引き落としのため室内に現金はない)。
それにも関わらず、犯人はどちらにも手を付けなかった。おそらく、物証を残さないことにかなり慎重だったのだろう。
「しかしひとつだけ明確な証拠を残してしまった。点灯していた明かりだ。それを見られてしまったことが、この事件を不完全なものへと変えた」
誰が見たのかは伏せておくことにする。目撃したというだけで美咲母を巻き込むことは避けたい。幸い、エースもそこに関しては追求してこなかった。
「隠密に動きたい侵入者が、なぜ電灯を点けなければならなかったのか。思いついた理由の候補は二つある。ひとつは暗所で紙面上の小さい文字を読む必要があったから。そしてもう一つは、暗がりに落ちてしまった小さなものを拾うためだ。俺が侵入者の立場だとすれば、この二つの状況下なら渋々灯りを付ける」
「待ってください。それなら懐中電灯や携帯の灯りでもなんとかならないっすか?」
「普通はそうだな。でも、文字を読むのはともかく、懐中電灯片手に落ちたものを拾うのは難しかったんじゃないかな。もし犯人が片手を使えない状況なら、ね」
エースは自らの左手をじっと見つめる。月明かりに照らされた包帯が白く輝いていた。
「……ちょっと推論が強引じゃないっすか? 第一、落ちた小物を拾うためだけに明かりを点けるのは相当リスキーっすよ」
「その小物が犯人を特定する証拠になりうるものだとしたら、是が非でも回収するはずだ。例えば、君たちバスケ部の三人が共通して持っているその群青色のミサンガとかなら、現場に残しておきたくはないんじゃないか?」
俺たちはボールが弾む音の方向へと首を向けた。
バスケ部二人の練習は次第にその激しさを増していく。ビンゴのフェイントがシティの巨壁の合間を縫って、ゴールに見立てた街灯を鳴らした。ダブルクラッチというなかなかの高等テクニックらしい。
二人が同時に跳ね上がった瞬間、足首のミサンガが揺れ動いた。全く同じものが、エースの足首にも巻かれている。その色は予想通り、コピー機のプラグの近くで見つけた糸と酷似していた。
おそらく、コードに足を取られたその瞬間に――
「久慈君。三人で揃えてから間もないのに、一人だけミサンガが短くなっているのは何故なんだ?」
エースは立ち止まり、自らの足元に目をやる。沈黙に耐えかねた俺が掛ける言葉を探していると、乾いた笑い声が先に響いた。
「久慈君、きみは――」
「もう一度巻き直せば、今度こそ叶うんじゃないかなって思ったんすよ」
口元や声は笑っているのになんでそんなに悲しそうな眼をしているのか、とは聞けなかった。
なぜなら俺は、既にその理由を知っていたから。
「でもダメだった。俺の願いはついに叶わなかったんすよ。ミサンガ切れたのにさ」
気づけば公園を一周して、もとのベンチの前まで戻ってきていた。再び腰を下ろしたベンチは、先ほど座っていたからか少し熱を帯びている。
エースは真っ先に俺に謝った。実害がないとはいえ立派な犯罪行為だ。この件の判断は加賀美室長に任せる、というところまで決めた。
何しろ、今回の件では加賀美室長も交えて話し合いたい事柄がひとつある。エース曰く、
「塾舎のダイヤル錠の暗証番号、室長の誕生日そのまんまだったんすよ。すんなり開いちゃったんで、逆に怖くなったっす」
とのことらしい。
そして室長は誕生日を大々的に公表している。あまりにも甘すぎるセキュリティには俺も開いた口が塞がらなかった。今度番号を練り直させるとしよう。
かなり遅い時間だけど、肝心な話をまだ出来ていない。エースにも確認を取ったうえで、もう少しだけ留まることにした。
「門出先生のことだから、俺が侵入した理由も分かってるんすよね」
「あくまで憶測だけどな」
鍵になったのは、先週末の教室でのエースの言葉だった。
「バスケ部の、とりわけ備後君の進路を知りたかったんだろう?」
皆の希望する進路については、芽吹に言われてからすぐに確認した。そのため、今回の結論に確信を得ることができた。
進路希望はアンケートフォームによる調査であり、結果は室長のパソコンに送られる。その締め切りは事件当日の夜であり、エースが侵入した時刻なら回答の大多数が集まっている時間帯だろう。
これを確認することが目的なら、備品の盗難や破損がなかったことにも納得がいく。
「その通りっす。三人で同じ高校に行けるようにってミサンガにも願ったんすけど、他の二人もそう思ってるかどうかは言ってくれないと分からないっすから」
先週金曜の教室では、誰も志望校名を口に出さなかった。諸々の理由やその場の空気感があったにせよ、それがエースの不安を煽る一端を担っていたのだろう。
極めつけはビンゴの恋愛がらみの話だ。シティが土曜日に目撃したという、ビンゴと密会する女性の存在。もし彼が友人より恋人を取るようなことがあれば、エースたちと進路を合わせない可能性は途端に跳ね上がる。
様々な疑念に押しつぶされそうになった結果、日曜の夜にビンゴの真意を確かめることにした、という経緯だった。
「確かめて、その後はどうなったんだ?」
「まだビンゴとはしっかり話せてないっす。確かめたら、余計にどうしたらいいか分からなくて。だって、アイツの第一志望は――」
「慶長大学付属横浜高校、男子校だよ。ちなみにバスケの強さは可もなく不可もなく、といったところかな」
いつの間にか、小脇にボールを抱えたビンゴがベンチを見下ろしていた。背後のシティも合わせて、上背のある二人は見上げれば圧巻の一言に尽きる。
「……全部聞いてたのか?」
「はい。チームの司令塔として、コート内の情報は把握しておきたいですから」
「ここコートじゃないけどな」
だとしても相当な地獄耳だ。
ケラケラ笑うビンゴに、エースは詰め寄った。
「なあ、勝手に進路希望を見たことは謝る。だからせめて教えてくれ、なんで突然男子校、それも慶長大付属なんだ?」
「……実はずっと迷ってたんだ。皆に内緒にしてたことは悪かったと思ってる」
ビンゴは言葉を選びながら、ゆっくりと心情を語る。言葉の切れ間に、ちらりとエースの左手を気に掛けながら。
「確かに、高校でもこの三人でバスケはしたい。けどさ、今みたいに何かの拍子にそれが出来なくなる可能性もあるんじゃないかと思ったら、急に怖くなったんだ。僕らを繋ぐものがなくなったら、その後の高校生活には何が残るんだろうってさ」
「そんなこと絶対に――」
「未来に絶対はないよ。だから僕は、バスケ第一で志望校を考えるのを辞めたんだ」
ビンゴの気持ちは痛いほどに分かる。
バスケの強豪校に三人で進学するとなれば、当然練習時間もライバルも増える。そうなった時、今と同じように三人揃って前線に立ち続けることができるのだろうか。そして、それが叶わなかった時に今までと変わらない距離感を保てるだろうか。
ビンゴは自分に自信がないタイプではない。ただ単に、バスケに左右されることなく友人であり続ける道を探していただけなのだろう。
「そんな折に相談に乗ってくれたのが
ハイレベルだからあくまでチャレンジ受験になるけどね、とビンゴは肩をすくめた。落ちた場合は公立高校を受験するらしい。
エースは黙って考え込んでいる。おどけた様子のビンゴも目だけは真っ直ぐに友を見つめ、返答を待っていた。
長い沈黙を経て、エースは顔を上げる。
「よく考えた上での決断なんだな?」
「もちろん」
ビンゴが頷くのを見てエースは息を漏らした。二人を取り巻く空気も、次第に緊張から解き放たれていく。
「なら、誰にも止める権利はねえよ。お前の挑戦を俺は応援するだけだ。その代わり、ひとつ約束してくれ」
エースは右の拳を前に突き出した。
「ここから引退まで、俺たちがチームでいられる最後の瞬間まで。全力で走り切ろうぜ」
「ああ。言われるまでもないさ。まずはその指を早く治さなきゃね」
ビンゴの繊細な拳がそれに合わさった。すぐそばで見ていたシティも、自らの大きな拳を重ねる。
互いに隠し事を抱えていた彼らが、ようやく互いの全てを知って認め合った。それを見て、やはりハーバード氏の友人の定義は正しかったのだと俺はひとり頷く。
中学卒業後、彼らは別々の道を歩むことになるかもしれない。それでも関係性の形を変えながら、親友であり続ける方法を彼らは模索し続けるだろう。
彼らだけじゃない。
まだ知り合って日の浅い俺と銀次も、ねじれたままの加賀美室長と佐内教諭も。ゆくゆくは親友という形に収まってくれることを俺は強く願った。
そういえば、とエースが口を開いた。
「ビンゴと密会してた女性って誰だったんだ?」
「密会? そんなのした覚えないけど」
「嘘つけ! 先週の土曜日、シティがしっかり見てるんだぞ」
「土曜日ねぇ……あっ」
ビンゴとタイミングを同じくして気づいたシティが、恥ずかしそうに額に手をやる。腕の中から転げ落ちたボールが、ころころと俺の足元まで運ばれてきた。
既におおかたの予想は付いていた。
「それ、十中八九銀次だろう?」
ビンゴはこくりと頷く。
僻目にあったのは、華奢で可憐な同僚(男性)だった。つくづく苦労人である。
「草間先生って……おいシティ! 結局お前の勘違いじゃねえか!」
「……申し訳ない」
思わず声の裏返るエースと、巨躯を丸めて項垂れる様子のシティ。そんな二人を背に、ビンゴは俺の傍へと歩み寄った。自然な動作で俺の手からボールを奪って微笑む。実に鮮やかな手捌きだった。
「ありがとうございました、先生。ちゃんと言う機会を作ってくれて」
「別に俺は何もしていないけどな。むしろここからが正念場だ。部活と難関校受験の両立、それに仲間と過ごす最後の学校生活。どれも疎かにするなよ」
「はい、そのつもりです」
ビンゴの返事を待って、俺は残る二人にも呼び掛ける。
「おーい、エースにシティも。もう遅い時間だから、気を付けて帰るように。もちろんビンゴもな」
それぞれに挨拶を残し、三坊主は各々の帰途についた。それを見届けてから、俺も自宅へと向かう。数歩進んだところで、すべきことをひとつ思い出して足を止めた。
振り向きざまに、背後の植え込みの影へと声をかける。
「ずっとそんなとこにいて寒かっただろ? ほら、帰るぞ」
「……うん」
身をよじらせるようにして這い出てきたのは、予想通り芽吹だった。
「ねえ兄さん。この前の話、覚えてる?」
職場からの帰り道。連れ立って歩いていた芽吹がおもむろに口を開く。
この前、というのはおそらく二日前の面談の夜のことだろう。あの日と同じく、芽吹の透き通るような肌は月明かりに照らされて白さが際立っている。
「ああ、覚えているよ」
忘れもしない、あの時。
芽吹の口から告げられた文言に、俺は耳を疑った。
『兄さんの性格が変わったのって、やっぱり高校を卒業したのが原因なの?』
それは芽吹の方じゃないか? と頭に浮かんだ言葉は声にならなかった。
当たり前だけど、そんな自覚はない。
まあ、芽吹との再会は文化祭以来、約二年ぶりだ。それだけの歳月を経れば、知らず知らずのうちに考え方や振る舞いに変化があってもおかしくはない。
……本当に、そうだろうか?
いや、違う。芽吹は『成長』ではなく『変化』と表現した。それは、空白の年月を以てしても不自然に感じたということではないか?
それこそ、俺が不自然に感じた芽吹の変わり様と同じくらいに。
だから二日前は適当にはぐらかした。それでも、一度生じた疑念は今も強く残っている。おそらくは、芽吹の中にも同様に。
「そのことなのだけど、私の見当違いだったのかもしれないわ。本質的なところで兄さんは変わっていなかったもの」
「……もしかして、それを確かめるために公園で張ってたのか?」
「そうよ」
悪びれた様子もなく芽吹は頷く。その目は真剣そのものだった。
そんなことしなくても、と言いかけて、急に罪悪感に苛まれる。前回、腹を割って話そうと決心してくれた芽吹に応えなかったのは他ならぬ俺だ。芽吹を責める道理はない。
今日こそは、ちゃんと話を聞くことにしよう。
「あくまで私の主観だけど、高校の文化祭で会った兄さんは友達や先輩に囲まれてすごく生き生きしてた。でも一緒に暮らし始めてからは、なんて言うか、まるで燃え尽きたあとの灰みたいなの。本当に驚いたわ」
「ひどい言われようだな」
「ずっと不思議だったの」
芽吹は普段通りの淡々とした口調を崩さない。それでも語られる言葉はどこか熱を帯びている。
「そんな時、あの日記帳が届いた。読んですぐ分かったわ。兄さんは高校時代の自分から変わろうとしてるんだって」
芽吹の言う通りだ。
思い出の数々を宝箱にしまい込んで、俺は無理矢理自分の思い描く『大人』になろうとしていた。自分の根底に眠る高校生の時の感覚から目を背けている様子は、芽吹には燃え尽きているように見えたのだろう。
自覚はなかったものの、傍から見ればそれこそ人が変わったような変貌ぶりだったのかもしれない。
「でも、最近の様子を見てて思ったの。やっぱり兄さんは変わってない」
「どうしてそう思うんだ?」
「コピー機を巡って備後君と奮闘してた時とか、今日の謎解きのくだりの兄さんはとても楽しそうだった。最後なんて、思わず三人をあだ名で呼んでしまうくらいには気が高ぶっていたんじゃないかしら」
そういえばそうだ。
この塾で働くようになってから、何かと面倒ごとに付き纏われるようになった。平穏を恋しく思う反面、奔走している時はなぜか懐かしさに似たものを感じる。
合格実績の一件から、高校時代の自分とはうまく付き合いながら成長していきたいと思っていた。でも芽吹の言う通り、実際は本質的なところで俺は何も変わっていないんじゃないか?
ふぅ、と芽吹はため息を漏らした。
「結局難しいのかしらね、変わるのって。心の底から変わりたいと願っても、そう願う『心の底』が変わることはないの」
思わず俺は芽吹の方を振り向いた。
芽吹の言葉には後を引くような苦さがあった。けれども、その矛先は俺だけに向けられているわけではないような気が、なんとなくしているのだ。
「なぁ、それってどういう——」
俺は二の句を継ぐことはできなかった。
月明かりに照らされる芽吹の寂しげな横顔は、諦観の色に満ちていた。清々しさと微かな憂い。相反する二つが入り混じったような表情は息を飲むほどに美しい反面、胸がつぶれるような痛ましさが滲み出でている。
こんな表情をさせてはいけないと、直感が警鐘を鳴らす。しかしながら、芽吹の真意を汲み取ることはできない。
改めて思い知らされる。
俺はまだ、この少女の根底にあるものを何一つ知らないのだ。
しばらくして、芽吹は顔を上げて俺の方を真っ直ぐ見つめた。いつもの眠たそうな面持ちに戻っている。
「兄さん、今度中学で体育祭があるの。何か特別なことをするわけではないのだけど、もし良ければ見に来てくれると嬉しいわ。日取りは——」
「大丈夫、エース達から聞いてる。見に行くよ。ついでに弁当も気合入れて作る」
唐突な話の変わりように驚きはしたものの、俺は二つ返事で答える。
反抗期ゆえか保護者の来訪を喜ばない中学生もいる中で、学校行事に誘われるというのはかなり珍しい。
「ふふっ、それなりに期待しておくわ」
そう残して、芽吹は軽い足取りで家路を急ぎ始めた。先ほどの悲しげな眼差しの名残はどこにもないほどの上機嫌である。
俺も芽吹の後に続く。普段の仕事よりも遅くなったせいか、一刻も早く家でくつろぎたいという気持ちが足を急がせる。
それでも脳内の大半を占めているのは、芽吹の言葉だった。
『心の底から変わりたいと願っても、そう願う『心の底』が変わることはないの』
一体、芽吹はなぜ変わることにこだわっているのか。そして、何が芽吹を変えたのか。
未だ、その謎だけは解明の兆しが見えないままだった。
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