第3話 悪役フェチと第2王子

 早朝、僕の部屋の外で警備の兵士と誰かが言い争っている声で目が覚めた。


「腹違いだろうと俺はアルバの兄だ。弟を見舞いに来てなにが悪い」


「しかし、国王が──」


「父へは俺から説明しておく」


バンッと荒く扉が開かれた。


部屋に入ってきたのは第2王子ライラス・ヴェルマ・スファナリア。

16歳。青い短髪、緑色の瞳。

メガネをかけていてまさにインテリな悪役王子。


珍しく兄上が見舞いに来てくれたのだから紅茶などを出しておもてなししたいところではあるけど、彼にとってベッドの上で寝ている僕はもう死んでいる。


少しずつ近く。

悪役ならば目的が達成されて高笑いする場面であろうけど、ベッドの前で膝を床につけた。


「すまない。俺の力が至らないばかりに、お前を犠牲にしてしまった。だが約束しよう。必ず、俺が王になる」


静かに泣いていた。

弟を失った兄として。


「お前には言っておかなければな。俺が王になろうとしているのは決して、私利私欲ではない。ジオニスだけは次期王にしてはいけないからだ」


第1王子ジオニス兄上とライラス兄上は仲が悪い。

【脳筋戦闘狂の正義の王子】と【狡猾なインテリ悪役王子】だから意見がぶつかるのは分からなくもないけど『王にしてはいけない』とはどういう事だろう。


「アイツの強さは国民を、兵士を弱くする。善良で強すぎた王は国を滅ぼすのだ。『民こそが国だ』などと奴は言うだろうが、『強き国』があってこその『民の平穏』だ。そして強さは個人であってはいけない。俺の動機は『愛国心』だよ」


誰かが言っていた気がする。臆病者こそリーダーの素質、だと。

戦で王の首が取られたら国の敗北なのは言うまでもない。

チェスだって王を他の駒で囲って守る必要がある。


ジオニスのように最前線で戦い続ける王なんてもってのほかだ、とライラス兄上は言う。


と言うのは置いといて、どこぞの悪役アメリカ大統領味を感じるのは気のせいだろうか。

急に『どジャアァぁぁぁ〜〜ン 』とか言い出しそうだ。


「この国の未来の為の行動だったが……動かなくなったお前を見たら、心がぶれるな」


優しく頭を撫でられた。


「兄弟の中ではお前を最も愛していた。兄を憎んでくれて構わない。どうか、安らかに」


「すう」と空気を吸うライラス兄上。

今から大声を出して兵士を呼び、僕が死んでいる事を伝えるだろう。

「暗殺者はまだいるかもしれない」なんて言って城中を探らせ、ジオニス兄上の部屋にて僕の血が付いた短剣が見つかる。


ジオニス兄上は弟王子暗殺で幽閉と王位継承の剥奪、悪ければ処刑。


まさに悪役の企て。

一手で正義の味方を絶体絶命に追い込む悪役王子、流石でしかない。


けれど、僕の命が失われているのが前提の作戦。


「おはよう、兄上」


「──うおっ⁉︎」


僕はむくっとベッドから起き上がる。

肺いっぱいに吸った空気と一緒に驚き声が盛大に出た。


「な、なぜだ……アルバ」


泣き跡がすごいライラス兄上。

相変わらず悪役のくせに精神が細い。


「真実の愛で生き返ることが出来たんだ」


「……お前の得意魔法は回復系だったか。なるほど、使い魔が主人を裏切るとはな。どうやら俺はお前を侮っていたらしい」


やはりインテリ悪役王子、理解力が良すぎる。

ベッドから起き上がっただけなのに自分がはめられたことを理解した。


「で、姿隠しの魔法を解いて父とジオニスの登場か?お前のあの暗殺者執事も何処かで見てるんだろ」


「ジェロームは確かにいるけど、他は誰もいないよ」


「まあいい、さっさと兵士を呼んで事情を話せ。俺の負けだ」


「聞き分け良すぎない?」


悪役ならもっと駄々をこねてほしい。


「弟を殺そうとしたんだ、覚悟はしていたさ」


「別に呼ばないよ、血がついた短剣を使い魔に届けさせたのだって業務に忙しい兄上と久しぶりに話したかっただけだし」


「香水付きの招待状みたく言って……なにをのんきに。お前の兄は悪なのだ」


「悪だろうと僕の兄だ。僕の為に泣いてくれるね。それに張本人が許すって言っているじゃないか」


大きな溜息を漏らすライラス兄上。

「そういや、こういう弟だった」と呆れたように呟いた。


「だけどね兄上、『殺し』はこれからはダメだ。それは2流の頭脳派悪役だから。ライラス兄上なら1流の悪役になって国を裏から動かせる」


「……暗躍、しろと」


「それに弟の屍を理由に王になったら、後が地獄だよ。僕は前例を知っている」


将軍の跡目争いで弟の命を奪った将軍。

それからは天下統一を目指して、戦を続けた。


「そいつは結末は?」


「家臣に裏切られて焼き討ち。第六天魔王って呼ばれてた」


「はは、俺の目指したのは魔王道だったか」


枯れた、目的を見失ったような笑い。


彼のような地獄は味合わせない。

僕の大切な家族は誰ひとりとして、失わない為に。


ライラス兄上も主人公にも負けない、世渡り上手な悪役にしてみせる。

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悪役フェチな第3王子の推し配下(キャラ)達がいつのまにか改心してるんだが? 鮫原あやと @Huhizame

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