平仲物語

混ぜるな危険

『平仲物語』 作者不詳 平安中期


女房A

「いやぁ、今夜、無茶忙しな。」

女房B

「せや。若はんのお友達、えろ来はって、突然宴会やもん。前もってゆぅてほしわ。」

女房C

「あんたら、文句いうたらあかんで。

最近、若はん、ずぅっと家に籠らはってたやん。心配しての慰労会やて。ゆうて、うっとこの酒飲んで、ゴッソウ食べはるだけやけどな。」

女房A

「それや。

せやけど、ほんま前は家で見んの、伝説のポケモン並みに稀やったのに、ここんとこサトシのピカチュウか、みたいにずっといてはるもんな。」

女房B

「いや、それをいうなら、ラッタや。おるはずやけど、それはそれで見ぃひんやん。」

女房A

「たしかに。」

女房C

「あんたら、知らへんの?

ほら、前な、むっちゃ、いきってはった時期あったやんか?」

女房A

「あー、あったな!」

女房C

「あれな、あの時分、通ってた女にな、二股されててんけどな、向こうさん、若はんの先輩やったらしいわ。で、その女な、向こうのほうが、条件良うおしたのに、なんやうっとこの若はん、選ばはってんて。」

女房B

「うわ。えげつない上に、見る目ないやん」

女房C

「いっや、えげつないのんは、その先輩や。なんや知らんけど、帝に有る事無い事、吹き込んだらしゅうて、そいで若はん、行かれへんくなって、挙句にクビや。」

女房A

「いやぁ、そらあかんわ。そら、けったくそ悪いわ。」

女房B

「せやけどそこまでのことになったんやのに、女と連絡したはるとかいう話あれへんやん?」

女房C

「もしかして、愛想尽かされたんちゃうか、ゆー話やで。」

女房A

「いやぁ、ないわぁ。もしかしてちょっと、若はん、ええこにされてたんちゃうの。」

女房B

「あっ!もしかして、こないだの出家騒ぎはソレのコレってことかいな?」

女房C

「せやねん。奥はん、ヒステリー凄かったやろ。旦那はんも死ぬ死ぬいわはって!」

女房B

「案外、そーゆー人に限って、死なへんねん。」

女房C

「せや。それで今日のコレやねん。」

女房A

「はぁ〜なるほどねぇ。色恋沙汰ってほんま大変やなぁ。」

女房B

「ほんまや、男と女、二人だけでもややこいのに、もう一人加わったら、もうあかんわ。危険やで!」



『平仲物語』 作者不詳 平安中期


今は昔、男二人して、女一人をよばひけり。先立さいだちてより言ひける男は、つかさまさりて、その時の御門に近うつかふまつり、のちより言ひける男は、その同じ御門の母后ははきさきの御あなすゑにて、官はおとりけり。されど、いかが思ひけむ、のちの人にぞ付きにける。


かかれば、この初めの男は、この持たりける男をぞ、いみじくあたみて、よろづのたいだいしきことを、ものの折ごとに御門の、「なめし」と思すばかりのことを作り出だしつつ、聞こえ損ひけるあひだに、この男、はた宮仕へをば苦しきことにして、ただ逍遥をのみして、衛府官えふづかさにて、宮仕へもつかうまつらずといふこと出で来て、官取らせ給へば、世の中も思ひうじて、「憂き世には交はらで、ひたみちに行ひにつきて、野にも山にも交りなむ」と思ひつれど、一寸をだにも放たず、父母のいみじくかなしくし給ふ人なれば、憂きもこれにぞ思ひさはりぬる。



時しもあれ、秋のころにさへありければ、いともの心細う思えて、心一つをなぐさめ侘ぶる夕暮れに、かく言ふ。


  憂き世には門(かど)させりとも見えなくに何(な)ぞもわが身の出でがてにする


と言ひつつ、ながめ居たるあひだに、なまいどみて、ものなど言ふ人のもとより、蔦(つた)の、いみじくもみぢたる葉に、「これは何とか見る」とて、おこせたりければ、かく言ひやる。


  うきなのみたつたの川のもみぢ葉はもの思ふ秋の袖にぞありける


返しもせず。


この男の友達ども、集まり来て、言ひ慰めなどしければ、酒ら飲ませけるに、宵(よひ)になりにければ、いささかけ近き遊びなどして、


  みのうみの思ひなく間は今宵かな浦に立つ波うち忘れつつ


とあり。これをあはれがりてぞ、遊び明かしける。

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