宇治拾遺物語

そこ!ではなかったんや

 『宇治拾遺物語』 作者不詳 鎌倉前期


 あの「蜻蛉日記」のセレブおばはんの息子の次男な、出家されてましてん。

へぇ、道命阿闍梨いわはりますけど、あの和泉式部はんとええ仲おした。


せやねん、ほんま、それやで!

坊さんやなのにって感じやんなぁ。


いや、そこちゃうねん。


で、その道命はんは、和泉式部はんとこ、いかはります。へぇ、夜に。

で、夜に行かはりましたよって、へぇ、致されます。

ほな、ことが終わりましたら、和泉式部はんも道命はんも、お疲れさんやさかい、グーグー寝はります。


ほんなら、その道命はん、夜中にはっ!と目ぇ覚めはりまして、お経よみ始めました。


せや、ほんまやで。

なんでそんな夜中に突然?って思うやんなぁ。

ほんま、ほんま!なにかと変わったお人や。なぁ?


いや、そこちゃうねん。


で、そこから延々、お経八巻ぜぇんぶ読まはって、終わった時には、もう明け方近こうにならはってました。


いーや、ほら、アレやん、あの人、むっちゃお経よむの上手やゆうて、評判らしやんか。せやから、練習、ちゃうんとちゃうか?

ほんま、それや。

頑張んの、そこちゃうやんって感じやんな。


いや、せやから、そこちゃうねん。


で、そのあとウトウトしてはりましたら、なんやこう、人の気配が致しまして、「だれやねん?」ゆーて、声かけはりました。


ほんなら

「あて、五条西洞院辺りに住んどります、翁にございますぅ」

言わはりました。

で、「なんやねん?」ゆうて聞かはりますと、

「今夜、こんお経、聞けたん、むっちゃラッキーやった思いましてん。」

「何ゆーてんねん、いっつも法華経、あて、読んだんねん。なんで今夜ばっかしやねん?」

道命はん、言わはりました。

ほんなら、

「あんさんが、ちゃんと身ぃ、清めはって、詠んではる時には、梵天さんとか、帝釈天さんとか、えっらい方々が聴きに来てはりますさかい、あてなんか、側にも寄れまへん。


今夜は、そんなことしはらしまへんと、よまはったんで、だぁれも来やらへんさかい、あて、御側ちこう上がらせてもろて、聴かせてもらいましてん。せやさかい、むっちゃ、嬉しゅうて。」

とゆわはりました。


せやさかい、お経をよむ時には、身を清めてよまなあきまへん。

「念仏、読経に際し、日常の定められた作法を破ってはならぬ」

恵心御坊も戒めてはります。

気ぃつけまひょう。


な!せやろ?

清めゆーて、なぁ?

そんなん、女とええ仲なってるとこやっちゅーねん!

そもそもんとこ、スルーなん?

な、あてもそう思う。

これ書いた人、おんなし穴のムジナやで、多分な。



『宇治拾遺物語』 作者不詳 鎌倉前期


今は昔、道命阿闍梨とて、傅殿の子に色に耽りたる僧ありけり。和泉式部に通ひけり。経をめでたく読みけり。それが和泉式部がり行きて臥したるけるに、目覚めて経を心をすまして読みける程に、八巻読み果てて暁にまどろまんとする程に、人のけはいのしければ、「あれは誰ぞ」と問いければ、「おのれは五条西洞院の辺に候ふ翁の候ふ」と答へければ、「こは何事ぞ」と道命いひければ、「この御経を今宵承りぬる事の、生々世々忘れがたく候ふ」といひければ、道命、「法華経を読み奉る事は常の事なり。など今宵しもいはるるぞ」といひければ、五条の斎曰く、「清くて読み参らせ給ふ時は、梵天、帝釈を始め奉りて聴聞せさせ給へば、翁などは近づき参りて承るに及び候はず。今宵は御行水も候はで読み奉らせ給へば、梵天、帝釈も御聴聞候はぬひまにて、翁参り寄りて承りて候ひぬる事の忘れがたく候ふなり」とのたまひけり。


されば、はかなく、さは読み奉るとも、清くて読み奉るべき事なり。「念仏、読経、四威儀を破る事なかれ」と、恵心の御房も戒め給ふにこそ。

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