枕草子

空気読みや

『枕草子』 清少納言 平安中期


 S納言

「な、春は明け方がええって思わへん?」

女房A

「え?!えっ!あの、えっと……へ、へぇ。

S納言パイセン、ほんまですなぁ。」

S納言

「こう空のな、山のキワが白うなって、お陽さんが登ってくるに従ごうて、なんやだんだん赤るなって……な、Aちゃん、どない思う?」

女房A

「え?!いやぁ、ほんまですなぁ?!

でも、うち、ほら、へぇ……あんましそーゆーの、じっくし見てるコトのうて……

へぇ、えっと、S納言パイセン、さすがですわ!」

S納言

「いやぁ、そんなことあらへんて。

でも夏は夜やね。お月さんがこう出ててな、いや、出てのうてもええねん。暗いなか、蛍、飛んではんの、ほんまええわぁ。

Aちゃんも、あんまし忙しせんと、たまにはのんびし外見て、心に余裕持たはった方がええで?」

女房A

「え?あー、へぇ、ありがとございます。

しっかし、S納言パイセン、よう見てはりますなぁ……

あの、えっと、パイセン、いっつも1人で外見てはるんですか?」

S納言

「そや。うち、いっつも心静かにゆったり外を眺めておんのや。Aちゃんも、こーゆーとこにせっかく勤めんのやから、うちみたいに、も少し心豊かにした方がえんちがう?

な、一人で薄暗い中、雨音に耳すましとったら、なんやしとしと雨が降んのも、情緒あるなぁって、しみじみするやんか?

え?しぃひんの?ふうん?

あんた、普段、何してはんの?」

女房A

「いや……うち、実はええ人いっつも来はるんで、それどころやのうて。」

S納言

「……あ、そう。ふうん。

そらAちゃん、若いし仕方あらへんわなぁ?

あ、Bちゃん。

あんな、秋は夕暮れ時がええと思うねん。こうな、もう沈むちゅ〜夕陽が赤こう射して、鳥が飛んでんのな、イケてる思わへん?」

女房B

「あぁ、へぇ、ほんまですなぁ。ええっと、S納言先輩の甘酒あまっこん、ぬるなっておまへんか?Aちゃん、どない?」

女房A

「あ、へぇ、ほんまですなぁ。」

S納言

「な、もう暗ろうなってしもて、風や虫の音ぇやなんか、言葉にならへんくらい、ごっつええけど、Aちゃんはすぐに男きはるから、味わう機会もあらへんやろなぁ。」

女房A

「へぇ、暗ろなったら、すぐ来はるんで。」

女房B

「あの!甘っこん……おかわりお待ちしまひょか?な?Aちゃん」

S納言

「Aちゃん、そら今は花の盛りやさかいなぁ。せやけど、たまにゆっくし外見て、四季の移り変わりみたら、感じるもの、あるんちゃう?

時の流れは早うて、なぁ、Bちゃん。」

女房B

「え、へぇ。ほんまですなぁ。で、甘っこん……Aちゃん、おかわ……」

S納言

「Bちゃん、冬は朝早い時がええと思わへん?

雪とか、霜とかで白うなってたり、なんやキィーンと空気してはる時に、火ぃを急いでおこして部屋へ配んのええ感じやんな。Bちゃん」

女房B

「へぇ、ほんまですなぁ、S納言先輩。

この甘っこん、なおしてきますよって、ほな、席立たせてもらいます。Aちゃん、ほら!」



女房A

「なぁ、Bちゃんパイセン。S納言パイセン、ええ風情や言わはんの、いっつも朝と夜やな。朝と夜、一人で暇こいてはんにゃな。」

女房B

「Aちゃん、煽らんとって!ほんま、ええ加減にしよし。」




『枕草子』 清少納言 平安中期


春はあけぼの。

やうやうしろくなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。


夏は夜。

月の頃はさらなり、闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。

また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。

雨など降るも、をかし。


秋は夕暮れ。

夕日のさして、山の端いと近くなりたるに、烏の、寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。

まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。

日入りはてて、風の音、虫の音など、はた、言ふべきにあらず。


冬はつとめて。

雪の降りたるは、言ふべきにもあらず。

霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。

昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶(ひおけ)の火も、白き灰がちになりて、わろし。




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