日本霊異記

知らん、知らん

『日本霊異記』 景戒 平安前期


 いや、まさかな、真昼間から、致してはるなんか思わへんやんか?


で、ドア開けたら、折しもコトの真最中や。

帝と皇后が寝台の上で、こっち見て

「え?」

いわはんねん。

こっちかて、えっ?ってなるやん?

そんなん相手、誰かて気まずいのに、相手は帝やで?


お互い、しばし、頭お留守や。


そこへ突然、ピカ!ゴロゴロ、いうてんな。


ほんなら帝な、ソロソロ後退りしはって、ゴホンゆ〜て、咳払いしはって

「あの雷さん、連れてきなはれ」

言わはんねん、いきなし!


そりゃ、いけずや、いけずにきまっとる。

せやかてそんなん、「そんなこと、誰がすっかいな」とか言われへんやんか。


で、「あ、へぇ」ゆーて、出てきたったわ!

もうてぇのええ追放や思うたわ。


ほんなら、な。

おんねん!雷さん。

嘘や思うやろ?

あてかて、マジでか?思うたわ。


いや、いや、ほんまに雷さんやったんかどうか、そら、わからんで?

ようわからんけどな、ピカーッ!ピカーッ!光ってはるモン、落ちてたさかい、拾って持って帰ってん。


ほしたら、やで。

帝がな、「うっわ」ゆ〜てからに

「おっかないさかい、もとあったとこに戻しなはれ」


え〜?なんやねんって感じやろ?


 で、突然やねんけど、あてが死んだ後の話になんねんけどな。

あての墓な、帝、造ってくれはってんな。

うん。ええ人やなって思うたんやけど、どこって、その雷さん落っこちよったとこやねんで?


しかもな、碑文の柱建ててくれてんけどな、「かみなりを取りし栖軽が墓なり」

え?あての生前の業績ってソレなの?

って思わへん?

帝にとって、あて、雷を捕らえただけの男やねん。もっと色々あったやろ?

正直、涙でた。


その上な、あての石碑にな、雷落ちてん!

そら雷さんもな、捕まえられたんちゃうわ!拾われただけや思わはって、ムッとしたんちゃう?


ドッシャーン!

ガッシャーン!

ドッゴーン!


むっちゃくっちゃ、落ちはってな。

あての石碑な、割ったるわ!みたいな勢いやってんけど。


はさまらはってん。


うん、そう。

挟まってん。


あほ、笑ろたらあかんて。


そんなことあったさかい、碑文書き換えられてん。

「生きても死にても電を捕れる栖軽が墓なり」

もうなんや、どないもこないも、なぁ?

あて、関係あらへんやん?


でな、よう考えたらやで、そもそも家臣の分際でやで、帝やら、皇后はんやらの寝室に、いきなし入ると思う?

せやろ?

ちゃんと「どうぞ」言われたさかい、あて、入ってん。


結構あの人、アレちゃう?って後になって思うたわ。


でな、あての墓んとこな、「雷の岡」呼ばれてんねんて。

ほんま知らんわ。


えっ?あて?

死んでんのに、何しゃべってんのん?ってかて、いや、あんた……

ほら、あんたかて、足、見てみぃや?



『日本霊異記』 景戒 平安前期


少子部ちいさこべの栖軽は、泊瀬はつせの朝倉の宮に、二十三年天の下治めたまひし雄略天皇 (大泊瀬稚武おおはつせわかたけの天皇とまうす)の随身にして、肺脯しふの侍者なりき。天皇、磐余いはれの宮に住みたまひし時に、天皇、后と大安殿に寐て婚合したまへる時に、栖軽知らずして参ゐ入りき。天皇恥ぢてみぬ。


時に当りて、空にいかづち鳴りき。即ち天皇、栖軽に勅してのたまはく、「汝、鳴雷なるかみを請け奉らむや」とのたまふ。答へてまうさく、「請けまつらむ」とまうす。天皇 詔言のたまはく、「爾らば汝請け奉れ」とのたまふ。栖軽勅を奉りて宮より罷り出づ。あけかずらを額に著け、赤き幡桙をささげげて、馬に乗り、阿倍の山田の前の道と豊浦寺の前の路とより走り往きぬ。軽の諸越のちまたに至り、叫囁さけびて請けてまうさく、「天の鳴電神なるかみ、天皇請け呼び奉る云々」とまうす。然して此より馬を還して走りて言さく、「電神と雖も、何の故にか天皇の請けを聞かざらむ」とまうす。走り還る時に、豊浦寺と飯岡との間に、鳴電落ちて在り。栖軽みて神司を呼び、轝籠こしこに入れて大宮に持ち向ひ、天皇に奏して言さく、「電神を請け奉れり」とまうす。時に電、光を放ち明り炫けり。天皇見て恐りたたはしく幣帛みてぐらたてまつり、落ちし処に返さしめたまひきと者へり。今に電の岡と呼ぶ。古京の少治田おはりだの宮の北に在りと者へり。


 然る後時に、栖軽卒せぬ。天皇勅して七日七夜留めたまひ、彼が忠信をしのひ、電の落ちし同じ処に彼の墓を作りたまひき。永く碑文の柱を立てて言はく、「電を取りし栖軽が墓なり」といへり。此の電、悪み怨みて鳴り落ち、碑文の柱をみ、彼の柱の析けし間に、電 はさまりて捕へらゆ。天皇、聞して電を放ちしに死なず。電慌れて七日七夜留まりて在りき。


天皇の勅使、碑文の柱を樹てて言はく、「生きても死にても電を捕れる栖軽が墓なり」といひき。所謂古時、名づけて電の岡と為ふ語の本、是れなり。



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