源氏物語
桐壺な、ややこ、産んだらしで?
『源氏物語』 紫式部 平安中期
なんやもうな、よぉ覚えてへんねんけど、帝な、女、むっちゃおるやん。
そんなかで、えっらい贔屓にされとる女おってんて。
その人な、エエトコのコ、ちゃうかってんな。
ほんなら、エエトコの子ぉとか、
「いやぁ、あの人のしはること、うちら、なんやよぉわからへん。珍しなぁ?」
とか言うてクスクス笑てる。
その上、その贔屓の女とおんなしやろってコぉらぁな
「あんコだけ、なんやすこない?」
とかな。
帝もちょい空気読めへんタイプみたいでな、周りに気ぃ配らんと、その女ばっかしやねん。
そんなん、周りかて……なぁ?
ほいで、その女な、あかんくなって、「お里に帰りたい」ゆーて、帰ってばっかしにならはってん。
ほんなら、また帝が「待て!」された感じになるやん?せやから、いっそ気にならはって。
他の人が
「あぁ〜もぉ、こらあかん!帝もたいがいにおしやす!」
そんな言うたかて、聞かへん。
もう、ほんま、ほんま、あかんねん。
絶対、そんなん、『イロぼけ帝』とか後世の笑いもんや。
周りの人たちも、もうな、困らはって。
「つきあいきれへん。見てて、こっちが恥ずかしいわ。」
「もう、好きにしはったら、えんとちゃいます?」
ゆーて、もう、しゃーないさかい、目ぇ、覚めんの待つことにしてんて。
せや。
な、楊貴妃って知ったはる?
なんや、唐って国、あったやん?
そこでも、こんなコトあってんて。
うん。
唐の皇帝がな、楊貴妃とかいわはる女にメロメロにならはって、ゴタゴタが起きてえらいことにならはってんて!
で、「それとおんなしちゃうんか?」ゆーて、そら噂になっても、しゃあないやん?
そんくらい、帝、ゾッコンやもん。
で、女からしてみたら、もう「そんなん言われたらかなん」思うんやけど、相手は帝なわけやんか。
さりげのう実家に帰って距離置こ、思うても、帝、空気読めへんからあかんねん。
ほんなら、もう、「いっそ、帝だのみでいくしかあらへんか」言うて、渋々、お勤めしてはるわけや。
あ、せやねん。
実家やねんけどな、なんやお母さん、シングルマザーやねんて!
ゆーてな、お母さん、しっかりしたはるさかいなぁ、
でも、なんかの時に、やっぱしなぁ。
でな!
こないだな、その女にな、ややこがな、産まれてん。
帝、もうそんなん
「早う、宮中に連れてきなはれ!」
言わはって、実家から連れて来させてん。
ほんなら、むっちゃシュッとした子やってん!
いや、跡取りはもうおんねん。
もう決まってんねん。
せやけど、こうな、あっこまでシュッとしてはったら、ちょっと、こう、あかんやん?なぁ?
帝、アレやし。
うん。
『源氏物語』 紫式部 平安中期
いづれの御時にか、 女御、更衣あまた さぶらひたまひけるなかに、 いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて 時めきたまふありけり。
はじめより我はと 思ひ上がりたまへる御方がた、 めざましきものにおとしめ嫉みたまふ。 同じほど、それより下臈の更衣たちは、 ましてやすからず。
朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、 恨みを負ふ積もり にやありけむ、いと 篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、 いよいよあかずあはれなるものに思ほして、人の そしりをも え憚らせたまはず、世のためしにも なりぬべき御もてなしなり。
上達部、上人なども、 あいなく目を側めつつ、「 いとまばゆき 人の御おぼえなり。
唐土にも、かかる事の起こりにこそ、世も乱れ、悪しかりけれ」と、やうやう天の下にもあぢきなう、人のもてなやみぐさになりて、 楊貴妃の例も 引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、 かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにて まじらひたまふ。
父の大納言は亡くなりて、母北の方なむいにしへの人のよしあるにて、親うち具し、さしあたりて世のおぼえはなやかなる御方がたにも いたう劣らず、なにごとの儀式をももてなしたまひけれど、とりたててはかばかしき 後見しなければ、事ある時は、なほ拠り所なく心細げなり。
先の世にも御契りや深かりけむ、世になく清らなる 玉の男御子さへ生まれたまひぬ。 いつしかと心もとながらせたまひて、急ぎ参らせて御覧ずるに、 めづらかなる稚児の御容貌なり。
一の皇子は、右大臣の女御の御腹にて、 寄せ重く、 疑ひなき儲の君と、世にもてかしづききこゆれど、この御にほひには並びたまふべくもあらざりければ、 おほかたのやむごとなき御思ひにて、この君をば、私物に思ほしかしづきたまふこと限りなし。
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