そして二人は

 賑やかな会場。もう五年も経ったのかと過ぎた日々を思い返し、目まぐるしさに忙殺されたと笑いが込み上げてきた。それを噛み殺して渡されたドリンクを飲むと、ノンアルコールだったらしくただ口に苦い甘さだけが残る。

「よぉ、理樹」

 頭上から声が降ってくる。視線を向ければ、懐かしい顔がそこにあった。

「やぁ、直哉」

 以前よりも精悍に男らしくなった顔。かつ清潔感があり、ああ日にも焼けている。歳を重ねたからか、よくよく見れば目尻に笑い皺もあるようだ。

 過ぎた日を噛み締めて、まじまじと見つめていることがおかしくなって笑った。

「老けたね」

「うっせ、お前もだろ」

 肩に腕を乗せて体重を掛けられる。昔は無かった戯れに意外に思うも、「歳食ったね、互いに」などと纏めた。

 ドリンクを空にしてグラスを揺らす。喉が渇く。おかわりが欲しいなと視線を動かせば、ついと差し出された。

「やるよ、口付けてねぇから」

 そういう彼のもう片手にはなみなみ入ったグラスがある。

「ありがと」

 声を掛ける前に持ってきてくれたんだなと理解して、僕はドリンクを受け取った。

 二三言交わし、どちらともなく壁に凭れて二人並び、会場に視線を向けた。

「中学の同窓会、やっぱ人少ねぇな」

 直哉が言う。

「前やったのが成人式の時だったし、三十の時でいいと思ったんじゃない? わかんないけど」

 僕も適当に言って、ぐいと飲み物を呷る。これも、ノンアルコール。葡萄のジュースの方がまだいい味をしてる。

「人間五年で変わるってのに、勿体無い奴らだな」

 勿体無い。そうか、そう思うのか、彼は。今知る彼の言葉は、不思議な心地がした。

「お前も、だいぶ変わったよな」

 直哉は僕に言ったらしい。彼の方を向けば目があった。変わった。変化。身体的なものはさほど無いだろうけれど。

「まあね」

 確かに、成人した頃よりは余程、現実を見るようになっただろう。

「結婚して二年だったよな、お前んとこ」

「ん、そうだね。この前二年のお祝いしたし」

「マメだな」

 そんなことないよと、また飲み物を呷る。そして、空になった。

 そうだね、空になった。あのときの恋心は錯覚だったのだろうか。いや、きっとそうだったのだろう。憧れや尊敬の気持ちを捉え間違えただけで。

 きっと、それだけだったのだ。

「奥さんと仲良くしてるか?」

「何その心配。大丈夫、仲良くしてるよ」

 円満と言える仲だ。気恥ずかしいけれど、愛し愛されてと言えるような関係を築けている。彼女と会えて良かったと心の底から言える。

「というか、僕の心配してる余裕あんの」

 若干呆れながら目を向ける。

「あー。それはまあ、な?」

 適当に誤魔化す直哉。視線まで泳がせる始末で、これは婚姻届けを目にする機会も得られなさそうだ。

「まあ、直哉なら良い人見つかるでしょ」

 彼が良いやつであることは、十年前から知っている。空になった容器をただなんとなく見ていると、直哉が何も言わずに僕を見ていた。

「どうかした?」

 彼は少し口を開けて。何かを言おうとして。戸惑って。そして何も言わずに。

「いや、何も」

 諦めるように、力無く。笑った。

 彼が何を言おうとしたのか、僕は知らないままでいる。

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ズレた二人の物語 高橋 夏向 @natunokaze

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