最近ハマってる小説たちの話

 ちょっと出来心、というか暇を持て余して「天気の子」をアマプラで見ちゃったんですよね。いやあ、面白かったですね。

 圧倒的にリアルな東京の街の書き込みと、完全晴れ女という圧倒的にファンタジーな人物。彼女が晴れ女という設定だからこその未曽有の気象災害(長雨)という設定が生きるんですよね。ファンタジーは突き詰めたリアルの中に一粒の究極のファンタジーを混ぜ込むのがポイントなんですねえ。

 ファンタジーの書き手としてとーっても勉強になりました。


 ちなみに海外の「天気の子」の映画評を見ていると「ホテルの中でカップラーメン食べたりカラオケしたりするのはリアリティに欠ける。下手な日本文化のCMだ!」とか書かれてましたけど、あれ、クソリアルなラブホの描写ですよね。外人には分からなかったんですね。


 以上をふまえて最近読んでいるカクヨムのファンタジー作品をご紹介しておこうかと。


 まずはアメたぬきさんのこの作品。


「超天然っ子がSNSで婚活。相手が「ざまぁ」する結婚詐欺師か、まさかの優良物件か。超過保護母がブチ切れそう!」

 https://kakuyomu.jp/works/16816452220270861880


 ご本人、どういうスタンスで書かれてるのかちょっとわかりませんが、これは圧倒的にリアルな現代ドラマですよ。優ちゃんがほとんどファンタジーレベルの天然娘という文脈で登場してくるのですが、最終的に「世の中には多分こういう人もいるだろう」という流れに落ち着いて行きます。そしてなぜかこのド天然娘を応援したくなるという不思議。構成の妙ですねー。

 義母たるオババと義叔父たる優ちゃんの父親も存在感ありまくり。ファンタジーっぽい内容がどんどん現実味を帯びてきて、最終的には超絶リアルな現代ドラマに収束してくるという、なかなか珍しい展開です。

 今、ちょうどいいところです。この先の展開が楽しみ。


 つぎに先日完結した水凪らせんさんのこれ。

「満月猫の暴食ワンダーランド」

 https://kakuyomu.jp/works/16816452220340412550


 これはファンタジー世界をメインの軸に書かれた作品なんですが、リアルな世界が生んだファンタジー。リアル世界で起こる、ないしは起こったことがリアルだからこそ、このファンタジーなんですよねー。

 すべてのファンタジスタにリアル社会での裏付けが付いているという、なかなかできないですよね、こういう展開のお話。これは驚愕しましたねー。素晴らしい練り込みでした。それに加えてらせんさんの疾走感のある筆致と描写。これ、完結済みですがもうすぐ公開取り下げるとのこと、読むなら今のうちです。


 そして20万字を突破して絶賛連載中のlagerさんのこれ。

聖女クズ勇者のうきん王様さぎしと私」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893993523


 この作品はありえない人物たちが、ありえない場所で、ありえないことを起こすというファンタジーを煎じ詰めたお話。ファンタジー書くなら振り切ってしまえ、というlagerさんの熱いパトスを感じます。

 それを語るのが作品世界の中で常識人のポジションを担うサッちゃん。サッちゃんの視点はいわば「常識的なものの見方をする読者」の視点であり、それでなおかつ読者にこの作品世界での常識を教えてくれるナビゲーターでもあるんですね。この構成、上手いですよねー。で、ときどきサッちゃんが「読者が想像する常識」を踏み外すのですが、それがまた面白い。おまけに常識を踏み外してしまって後悔したり自己嫌悪に陥るサッちゃんがさらに面白いという。

 このお話も今いいところです。サッちゃん、大活躍の章。見逃せません。


 以上、ファンタジー作品とは、という観点からご紹介した三作品でした。


 思うにファンタジー書くなら、登場人物、場所(作品世界)、ストーリー(作品中の出来事)のどれをファンタジーにするか、をよく考えてから書かないといけないですね。

 最初はどれか一つだけファンタジーにして残りは徹底的にリアルにするべきですよね。人物をファンタジーに仕立てるなら作品世界と出来事はリアルにする、とか。三つ全部が現実感のないファンタジーだと、説明だらけか、妄想垂れ流しの日記になりかねません。

 そうでなければlagerさんのように作中に優秀なナビゲーターを配置して読者の案内人をさせないといけませんね。これ主人公にナビゲーターの役割を負わせるとわけがわからなくなりますからね。

 書き慣れない人が書いた異世界ファンタジーが読み切れないのは、この三つが全部ファンタジーなので常識がまったく通用しないから、というのが分かりました。


 長々と書きましたが、天気の子、さすが話題になるだけあって面白かったです。

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