第3話 雲一つない蒼空


 ゲームではやっぱり相手がプロだろうが、覇者だろうが負けたくない。全力で戦って負けたんだから悔いはないなんて言葉を残す者もいるが、実際負けたら悔しいものだ。ゲームだって何だって同じだ。会社にいた時だって、同じ時期に入った人間に業績で負けるのが気に食わなかった。やっぱり自分の性分は負けず嫌いなのかもしれない。


 打ち寄せる波の音が、からっと晴れた青空に映えて見事だ。こんなリゾート地で銃撃戦をやっている場合なんかじゃない。俺だってハワイなんかに旅行に行っちゃったりして、レポート雑談配信だってやりたいぜ。


 少し海の方に視線をやっていると、安全地帯の縮小が始まった。今いる場所ではダメージを食らい続けてしまう。すぐさまこの場を離れて、残っている参加者を狩らねばならない。


――ズドドドドドド!


 唐突に、マシンガンの連射音が辺り一帯を支配する。ここはただのリゾート地などではない、戦場なのだ。圧倒的な強者が、俺の近くで猛威を奮っていることは確かだった。生存者サバイバーがさらに急激に減っていく。このゲームもそろそろ最高潮クライマックスを迎えているようだ。俺は、さっき手に入れた性能の高いアサルト小銃を手に匍匐ほふく前進の姿から視点をずらすとそこに……


――SIGUシグと言う名前が。


 凍波羅いてはらシグ、やはりそこにいたのか。俺は、冷静に奴の視界に入らないように息を殺して忍び寄る。呼吸をすることも忘れて、息をのんだままコントローラーを握る。ここで見つかれば、きっと即ゲームオーバーだ。奴が他の敵に目を付けている、その一瞬の隙を突く。俺が確実に奴に勝つ方法はそれしか考えられなかった。視点を自分の後ろや前に素早く動かしながら、機をうかがう俺。


 優勢に立っていると思っている者ほど、自分が脅威にさらされていることに気が付かない。俺は愚かなプレイヤーの一人だった。


――SIGUがいない!?


 後ろに視点を動かした、その一瞬、その隙に奴は姿を消した。岩陰か、建物の中か、草むらか、俺にはまったく奴が潜む場所の見当がつかなかった。


――マズいッ……


 そう思った時には既に脳天をぶち抜かれていた。


 雲一つない蒼空が、全ての終わりを告げるように俺の頭上に広がっていた。これは所詮はバーチャルの世界、またやり直せばいい。


 そうまたやり直せば……


 銀狐ファムは画面の中で視聴者に笑顔を振りまいていた。だけど、暗い部屋にいる孤独なおじさんの顔には涙があった。


 夏が終わった瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バーチャル美少女受肉おじさんの夏休み 阿礼 泣素 @super_angel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ