一つの理想の形、それを示す意義

「それでは、新郎と新婦のご入場です!」


資料の説明を終えたエリナ・バーンズが、とても晴れやかな表情でそう告げて、プロジェクターやスクリーンや幕を撤去する黒子らと共に脇に下がっていく。今日の主役は、あくまで白百合2139-PB。自分は脇役でしかないことをわきまえていた。


「おお……!」


幕が除けられたことにより現れた千堂京一せんどうけいいちと白百合2139-PB(千堂アリシア)の姿に、役員達が息を呑む。完璧までに仕上げられた、


<理想の新郎新婦の姿>


に圧倒されたのだ。


『美しいから価値がある』


というわけではないものの、やはり、


<目指したくなる高い理想>


がこうして提示されることには意味があるだろう。これはあくまで、<イメージ>なのだ。これを基にそれぞれのカップルが自身に合ったアレンジを加えていけばいい。『自分らしさ』を演出すればいい。白百合2139-PBが提示すべきは、


<一つの理想の形>


なのである。それを、白百合2139-PBは確かに表すことができていた。


千堂と手を取り合い、白百合2139-PB(アリシア)は、あごそかに会場の中心を進んでいく。


<力を合わせて共に人生を歩むパートナーの姿>


を体現している。そんな花嫁の輝かしい未来を、純白のウェディングドレスが表しているとも言える。


もちろん、人生は輝かしいだけではない。つらく苦しい時期があるのも事実だ。しかしそんな現実ともパートナーと共に立ち向かっていく強い意志をも、この時に白百合2139-PBがまとっていたドレスは表現しているのだという。


一点の曇りもない真っ白なこのドレスが。


そしてそんなドレスに込められた<想い>を、白百合2139-PBは見事に表現していた。単なる<モデル歩き>ではない、


<強い決意を胸に秘めた花嫁の歩み>


が、そこにはあった。


『ああ……敵わないな……』


脇に寄せられた幕の陰から二人を見ていたエリナ・バーンズがふと思う。彼女の視線の先にあるのは確かに白百合2139-PBでしかないのだが、自分達が心血を注いだそれを千堂アリシアが完璧に稼働させてくれているからこその姿なのだ。アリシアの<想い>そのものを白百合2139-PBが再現できているとも言っていい。


悔しいのは事実ではあっても、ここまでのものを見せ付けられては納得するしかなかった。千堂アリシアの<千堂京一への想い>は本物であると。<心>があるとかないとか、ロボットであるとかないとか、そのようなことさえ些末な問題でしかなかったのだった。


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