早着替え、まるで魔法のごとく
エリナ・バーンズが資料の説明を行っている間、千堂アリシアは文金高島田からウェディングドレスへと着替える。これも、ウェディング課のスタッフではなくエンターテイメント部のスタッフの手によって行われた。いわゆる<早着替え>のノウハウが必要だったからだ。
事実、文金高島田姿の白百合2139-PBが見る間に<裸>にされて、今度はウェディングドレスが着付けられていく。
なお、<裸>とは言っても人間ではないので、素体状態のボディにはボディスーツと白いストッキングを身に着けたような意匠が施されている。様々な衣装、時には水着を身に着けることもあるがゆえにかなり人間に近い姿が再現されている白百合2133-WDとは違って<結婚衣装>専用だからだ。しかも最初はウェディングドレスのみを想定していたのでそのようなデザインが施されたが、文金高島田のようなそれでは体が完全に隠れてしまうのでこれでも問題なかった。
そんな白百合2139-PBが瞬く間に真っ白なウェディングドレスをまとった花嫁姿に変じていくのは、まるで魔法を見ているかのようだった。
こうしてエンターテイメント部のスタッフによって大まかな着付けが行われ、さらにウェディング課の専門スタッフによって細かい部分の仕上げが綿密に行われていく。エンターテイメント部のスタッフのそれはあくまで<ドラマや映画用の衣装の着付け>であるため、カメラを通したり舞台上での見栄えが良ければ成立するため、<実際の結婚式用のそれ>とは若干違っていたからだ。
これについてはあくまで<用途の違い>からくるものなので『どちらが正しい』などという話ではない。どちらもそれで正解なのだ。この間、千堂アリシアはそれこそ何もできることはなかった。衣装の着付けがしやすいようにスタッフの指示に従って手足を動かしたり体の向きを変えたりしただけだ。
そうしてわずか十分で完璧に仕上げられた、
<ウェディングドレス姿の白百合2139-PB>
が、ドアの前に待機する。その陰ではもちろん、別室で
「……」
そんな千堂も、神妙な顔つきでされるがままになっていた。<プレゼン用の演出>とはいえ、面映ゆい気分ではある。しかし今は照れている場合ではない。これは結婚式ではなくプレゼンなのだから。
本当の結婚式であればそれこそ盛大に照れた様子を見せたくらいの方が可愛げがあったに違いないが。
こうして共に準備が整えられて、いざ、次のステージへと歩み出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます