千堂アリシアと千堂京一、理解する

「これは……私が以前、シュヴィーツ・フォン・マーズの当局に情報提供したものですね」


差し出された写真を見て千堂アリシアはそう口にする。と言うか、そうとしか言いようがなかった。彼女としてはそれ以上の認識がないがゆえに。


しかし、ミシェルがさらにもう一枚の写真を出してきた瞬間、


「これは……!」


アリシアもハッとなる。彼女の中で情報が繋がるのが分かった。


「ジョン・牧紫栗まきしぐり…さん……?」


改めて提示された写真には、スキンヘッドのいかめしい表情かおをした人物が駅のホームらしき場所に立っている姿が写し出されていた。見た目の印象はかつてとはまったく違っているものの、メイトギアであるアリシアにはそれが牧紫栗であることが分かってしまう。相貌認証機能により。


ただ同時に、明らかにJAPAN-2ジャパンセカンド社で勤めていた頃とは顔の造形に不自然な変化が見られた。頭髪を落としスキンヘッドにしただけでなく、鼻の形や目の形が変わっており、人間ではすぐには気付かない程度には変化している。


「整形、ですね……?」


思わずそう口にしたアリシアに、ミシェルは、


「はい。そうですね。私どもの調査により、この写真の人物、ジョン・牧紫栗が整形手術を受けた非正規の医師についても特定しました。その上でこちらの写真を見ていただければ……」


言いつつ最初の写真に手を添えると、


「確かに……同一人物ですね……」


アリシアが呟いたとおり、顔の特徴の多くが一致した。整形後にさらに整形した上に、表情がやや強張っているかのような印象が、最初の写真にはあった。これについてミシェルは、


「公式には明らかにされていませんが、電脳化手術を受けた者に共通して見られる特徴が、その表情には現れています」


と説明する。もうここまで言われると、アリシアにも察せられてしまった。


「今回、アルビオン社に対してクラッキングを行った容疑者は、彼、ジョン・牧紫栗さんだということですか……?」


と尋ねるが、それに対しては、


「それについてはこちらからは何とも申し上げられませんが、牧紫栗を直接見ているあなたに確認していただきたくて、今回、お時間を取らせていただいた次第です。ご協力、ありがとうございます」


言いつつ頭を下げただけだった。けれどこれは当然だろう。<調査上の秘密>に該当することであろうから。具体的なことは口外できるはずもない。


しかしアリシアも、同席していた千堂京一せんどうけいいちも、アルビオン社がジョン・牧紫栗を容疑者として追っているのは理解できてしまったのだった。


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