電脳化処置を受けた者が法を犯す、その意味
しかしこれが、千堂アリシアが直接関われた最後となった。これ以降はすべて秘密裏に対処されるがゆえに。
と言っても決して『闇から闇へ』という意味ではない。生きたまま確保できれば普通に<容疑者>として逮捕され、刑に服することになる。
ただ、電脳化処置が施された者の場合は、それ自体が大変な<武器>を所持しているのと同等と見做されるので、
<電脳化処置を無効化する処置>
が施され、最悪の場合は重度の記憶障害や認知障害を引き起こす可能性もあるとされている。それ自体はさらに治療(記憶や認知をサポートするAIを、電脳端末と置き換える処置)を施すことで日常生活には支障がない程度までには回復できるともされているものの、その、
<日常生活には支障がない程度>
というのが果たしてどこまでを言うのかは、実は明確にはなっていない。それこそロボットのように感情を持たない状態で生命活動に必要な動作だけができるような状態であっても、それは『日常生活には支障がない』とされるのだから。
これはある意味、
『肉体はそのままでロボット化する』
と言ってもいい事態かも知れない。電脳化し、そしてそれを悪用して法を犯すというのは、そこまでのリスクを背負うほどのものだった。
無論、その状態であっても<人間>であることは変わりないため、ロボットと違い<人権>はちゃんとある。植物状態の人間にも人権が保障されているのと同じだ。もっとも、電脳化技術の副産物としていわゆる<植物状態>から回復する治療法も存在する。AIによって失われた脳機能を補うのだ。これによって植物状態からほぼ完全にそうなる以前の状態にまで戻れた事例も数多い。
一方で、『肉体はそのままでロボット化した』かのように、明瞭な感情を見せない事例も少なからず存在するが……
それが、
『人間として望ましい姿なのか否か』
という議論はもちろんあるものの、元々の記憶の一部が残っている場合も多く、自分の名前を口にしてくれたり、呼びかけたらはっきりと返事をしてくれるのだから、それだけで嬉しいとの意見もあり、難しい問題として存在しているのも事実ではある。
ただ同時に、
『人間は、『<価値>があるから人間である』というわけではない』
のも事実であるとされている。なぜならば、亡くなってからも<尊厳>は失われないとされているからだ。亡くなった人間にも尊厳があるのならば、生きている人間にそれが存在しないはずがない。
『誰かにとって都合が悪いからその人間の尊厳が失われる』
ことは有り得ないという話だ。
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