アルビオン社とJAPAN-2社、一芝居打つ

こうして事態は次の段階に移り、それこそ表には出てこなくなった。表向きにはアルビオン社とJAPAN-2ジャパンセカンド社で、どちらに責任があるのか?という点で今なお折衝が行われているという形になった。


当該部品が使われた商品についてはアルビオン社で回収、返金対応されたが、そちらについての損害も『五千万アルビオンポンド』に達しているという。


もっともこれは、アルビオン社とJAPAN-2ジャパンセカンド社が協力して行っている<ブラフ>である。クラッキングの実行犯に、自身の犯行が気付かれていないと誤認させ、油断を誘うために、一芝居打ったということだ。クラッキングであったということを大々的に報道すると当然のごとく逃げようとするであろうとの予測ゆえに。まあ、回収・返金対応については事実だが。


その陰で、アルビオンが擁する情報部のエージェントが、潜伏場所と推測される複数の個所を検索する。


そんな調子で完全に水面下での動きになってしまったがゆえに、それこそ千堂アリシアには何の関係もない話になってしまっただろう。


が、そこに、


「アリシア、アルビオン社から話を聞きたいという方がいらっしゃってる。今から私の部屋に来てもらえないか?」


千堂京一せんどうけいいちから連絡が入った。


「あ、はい。分かりました」


パン屋<アンドゥ>に派遣されていた白百合2139-PBには問題がないことが確認されて凍結が解かれ、再び店員として働きつつ、アンブローゼでの試験も同様に続けつつ、千堂アリシア(本体)は、役員としての千堂の部屋に赴いた。するとそこには、


「初めまして。私は、アルビオンの秘書課に所属するミシェル・レオンハートと申します」


何とも美麗かつ聡明な印象のスーツ姿の女性が待っていた。


「千堂アリシアです。お目にかかれて光栄です」


アリシアも応えつつ、握手を交わす。そんな彼女に、


「クイーン・オブ・マーズ号事件解決の立役者となったあなたとこうして握手を交わせるとは、私こそ光栄です」


ミシェルはニヤリと鋭い笑みを浮かべながら言った。


「あはは……」


これにはアリシアも苦笑いを浮かべるしかなかった。そうして二人は千堂と共に応接用のソファに座り、


「早速本題に移りたいと思います」


前置きもそこそこにミシェルは一枚の写真をテーブルの上に差し出した。その写真にアリシアも見覚えがあった。以前、タラントゥリバヤの墓に参るために訪れたシュヴィーツ・フォン・マーズの街頭で見掛けてひどく気になったことで情報提供した人物の写真であったのだ。それも、アリシアが送った映像をそのままプリントしたものであった。


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