不良品、それがもたらすダメージ

しかし、良純りょうじゅんがアンドゥに立ち寄らないとなると、せっかくのサンプルが減ってしまう。


「一体、何があったんでしょう?」


アンドゥで仕事をこなしつつ、千堂アリシアは端末を通じてエリナ・バーンズと会話を交わしていた。ロボットなのでこういう芸当もできる。


「それが、アルビオンに供給された部品に不正コードが見付かったんだって。それ自体はウイルスの類じゃないのは確認できたそうなんだけど、『不正コードが紛れ込んでた』というのがもう大問題だから。その部品をそのまま使ったら、他にどんな悪影響与えるか分からないし」


「そうですね。よく分かります」


<不正コードが紛れ込んだ部品>


確かにその不正コード自体がその時点でこれといって有害なものでなくても、製品として組み上げた時にどのような結果をもたらすか分からないためそのような部品は当然使えない。しかも、今はアルビオンに納品された物からしか見付かってはいないものの、不正コードの混入が事実なら、当然、その当該ロットを含む前後すべての品物を回収し再チェックしなければならなくなる。それどころか、製造工程のすべてを再検証する必要もある。これがもたらすダメージはまさしく計り知れない。


「当該の部品を製造していた部署は今、それこそ上を下への大騒ぎでしょうね」


と、そこに、


「主任! サプライヤー課からの連絡です! アルビオンで不正コードが見付かったのと同じロットの部品がメイトギア課にも納入されていたとのことで、その部品が使われたメイトギアの生産を停止してほしいと! 正式な指示書も届きました」


連絡を受けた部下が声を上げる。それを受けたエリナは、


「さっそくか……うちで現在開発中の機体のチェック! 当該部品が使われているものはすべて現時刻をもって凍結! 急いで!」


指示を出した。同時に白百合2139-PB(仮)の詳細な仕様書に検索をかけると、


「ダメか……」


悔し気にエリナが呟いたように、まさしく当該ロットの部品が使われていたのである。


「アリシア、聞いての通り、白百合2139-PB(仮)は現時刻をもって凍結。ディープリウォッシュを行う。リンクを解除して」


「はい……」


アリシアも残念で仕方なかったが、事態が事態だけに異を唱えることはできなかった。今はとにかくディープリウォッシュ(徹底した洗い直し)を行って安全を確認しなければいけない。


『不正コードが紛れ込んだロボットを運用している』


などということになれば、それこそ<AI・ロボット排斥主義者>がまた騒ぎ出すだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る